「共謀罪成立のもとの危険な徴候」

2017年6月、共謀罪の規定を含む組織犯罪処罰法の改正法案が成立してから、まもなく2年が経過する。委員会採決を省略した中間報告という奇策による「成立」であった。
2017年7月に施行された際に出された通達では、共謀罪が適用された事例は法務大臣に報告することが求められているが、2019年3月の時点で、まだ報告はない。
だが、危険な徴候は、法の成立前から現れていた。
沖縄では、辺野古新基地建設に反対する山城博治さんたちが2016年に公務執行妨害や威力業務妨害の罪などで逮捕・起訴、約5ヶ月にわたって勾留され、国連人権理事会など国際社会からも批判を浴びた。
今年に入り、危険な徴候は、さらに広がりを見せている。本稿で報告する全日建関西地区生コン支部の事件は、共謀罪が適用された事件ではないが、労働組合のコンプライアンス活動が「恐喝」に、労働争議における説得活動が「威力業務妨害」という罪に問われ、その共謀を理由として、交渉・争議行為の現場に一度も参加していない組合幹部や事業者も含め、昨年8月から今年の3月までにのべ62人が逮捕されている。いまなお10名の勾留が継続され、本年3月末の時点で勾留期間が7ヶ月に及んでいる者もいる。
私は、何が起きているのかを自分の目で確かめるために、秘密保護法や共謀罪の制定に反対した仲間の弁護士とともに、本年2月1日に大阪地裁での第1回公判を傍聴した。
開廷2時間前にもかかわらず、生コン支部を「潰す」と公言する大阪広域生コン協同組合が動員をかけていたようで、経営者側と思われる傍聴者約70名がすでに法廷前で並んでいた。多くの組合員は傍聴すらできなかった。
被告人の意見陳述の中で、ある組合員は、「正当な労働組合活動が、恐喝とか、威力業務妨害とか言われて犯罪扱いされているのが本件です。労働組合イコール反社会的集団というレッテルを貼る世の中に持っていけるよう、私たちの活動が利用されていると感じます。もし団体行動が犯罪扱いにされるのであれば、団体交渉で決裂することもできなくなり、会社の言いなりになるしかなく、団体交渉権も力を奪われます。そうなると労働組合に力がなくなり、労働者は弱い立場でいいようにされるだけになります」と述べた。
労働組合という組織が果たす社会的な役割を考えれば、きわめてまっとうな意見である。そして、驚いたことに、傍聴している生コン会社の経営者の中にも、こうした組合員の語る言葉にうなずく者や、小刻みに震えている者もいたのである。その意味は、生コン支部の活動が、これまで中小企業の経営者らと協力し、その生活や利益と共存する形で進められてきた背景を知らないと理解できないだろう。

…つづく
海渡雄一(かいど・ゆういち)
1955年生まれ。弁護士。日本弁護士連合会秘密保護法対策本部副本部長。著書に『秘密保護法 何が問題か』(岩波書店、共著)、『何のための秘密保全法か』『共謀罪とは何か』(岩波ブックレット、共に共著)など多数。

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