関生支部の闘いとユニオン運動・第9回 「関生支部への共産党の分裂・脱退攻撃-政党の労働組合への組織介入」

木下武男(労働社会学者・元昭和女子大学教授)

…第8回からのつづき

これまで1965年の支部結成から1982年の「32項目」協定の実現まで、関生支部の疾風怒濤の闘いをみてきました。一般労働組合の形成運動のなかで成長した関生支部は、日本の労働運動を変える方向を指し示していました。ところが、この切り開いた到達点を突き崩したのが、1982年の権力弾圧と共産党の攻撃でした。

「弾圧の広がり」

弾圧直前、関東にも東京生コン支部ができ、全国的にも1977年には運輸一般の全国セメント生コン部会が確立し、全国指導部をもつ業種別部会がつくられました。こうした勢いは、生コン業界という狭い産業ですが、全国的な産業別労働組合が日本で登場する前夜が開かれたとみてよいでしょう。この関生型運動の広がりが経営側を震撼させたに違いありません。
ここで警察権力の弾圧が始まったのです。すでに1980年の秋から関西での弾圧が始まり、1982年までに延べ38名が逮捕されました。この弾圧が東京地区生コン支部にも及んだのです。
支部の横山生コン分会で、経営者の組合つぶしの不当労働行為が起き、争議になりました。解決のための団体交渉を、横山生コンが拒否してきたので、背景資本であった日立セメントに交渉を要求しました。結局、1982年2月23日に、日立セメントの間で和解協定(解決金1300万円)が成立し、争議は終わりました。ところが、11月26日になって、「恐喝罪」として支部の3名が逮捕されたのです。日立セメントの社長は「金銭授受について事件にする気はなかったと証言している」(飯坂、2004)にもかかわらず、公安2課が被害届を提出させたのです。
この一件が、日本の労働運動の未来を揺るがす大事件へと広がることになります。警察は争議を指導していた東京生コン支部だけでなく、上部団体の運輸一般の中央本部にまで捜査の手を伸ばしました。支部役員の逮捕の同日、中央本部など都内15ヵ所にも家宅捜索がなされました。

「政党の労働組合への介入」

ところがここで、思いもかけない方向に事態は動くことになります。あろうことか日本共産党の関与です。1982年12月27日の共産党機関誌『赤旗』に、運輸一般本部の「声明」が掲載されました。その中央執行委員会の「声明」は、「権力弾圧」は「一部の下部組織の社会的一般的行為として認められない事態をとらえて」なされたというのです。要するに、運輸一般本部は、これまでの弾圧は不当であるとの態度を豹変させて、「下部組織」がやったことで、本部は関わりないとの態度を打ち出したことになります。
実は、それ以前に、共産党員である2人の常任中執が党本部に呼ばれ、荒堀宏労働局長から「指導」されていたのでした。「声明」を出すことを強いられたのです。しかし、共産党の「指導」の方向では常任中執の議論はまとまらなかったのです。組合民主主義のルールを経ずに、党の「指導」によって強引に本部としての「声明」を出させたのです。
しかし、ことの本質は、共産党の機関紙が、運輸一般本部の「声明」を掲載したことにあります。関生の組合員を始め運輸一般の組合員は、『赤旗』掲載の「声明」で弾圧に対する本部方針を知りました。政党を通じて方針を知らされたのです。
突然の掲載は急ぐ必要があったからです。今回の争議解決に、本部は関わりないことを明らかにしたかったのですが、しかしすでに、本部に捜査が入っています。心配は本部の次の段階に捜査が及ぶことだったのです。
それが共産党です。政党は労働組合運動レベルの紛争に関わりないし、弾圧が及ぶはずはありません。しかし、その心配が生じる背景は、1983年8月25日の運輸一般中央執行委員会での当時の委員長の発言から察することができます。「政党が、大衆組織のなかで政党の方針を貫徹するためにインフォーマル組織をつくるのはあたりまえ」だというのです。インフォーマル組織とは労働組合内部の党員グループのことで、「フラクション」とも言います。
つまり、この発言は、運輸一般本部をフラクションを通じて裏で実質的に指導しているのは共産党であることを、自ら明らかにしてしまったのです。だから弾圧の手が共産党に及ぶかもしれない。それは組織防衛上から避けなければならない。だから「下部組織」がやったことにする。共産党の組織防衛のために労働組合へ組織的介入した、これが根本問題だったのです。

「産別組合を選んだ共産党員たち」

「それはうまくいくに決まっている」と共産党は考えていたと思います。なぜなら関生支部には絶大な共産党の勢力があったからです。当時、組合員3500名のうち共産党員が500名余り、『赤旗』読者にいたっては3000名です。そして支部執行委員の9割以上が共産党員と言われてきました。大きな勢力だったのは、関生組合員が多くの共産党員の献身的な組合活動を身近に見て、尊敬と信頼をおいていたからです。
共産党本部は、共産党勢力をフラクションを通じて操作すれば、簡単に支部指導部は交代させることができると考えたのでしょう。しかし、共産党員は一部を除いて、多くは支部指導部のもとで産業別闘争を闘い抜いた戦闘的な活動家でもありました。やむなく党から離れる道を選んだのです。「声明」から3ヵ月で党員は10%にまで減少しました。
経過の子細を示すことはしませんが、結局のところ、運輸一般本部と関生支部との対立は深まります。そして、支部の中で本部に追随する本部派がつくられ、支部執行部を握ろうとします。しかし、支部組合員の多数の支持は得られません。そこで本部派は支部からの離脱を選択しました。こうして関生支部は分裂したのです。権力の弾圧と、共産党・運輸一般本部の離脱・分裂攻撃によって、関生支部の組織は半減してしまいました。
この共産党の組織介入を過去の誤りとしてすますわけにはいきません。それは日本の労働運動の歴史を見る上でも、また将来の再生の展望を検討するためにも欠かせない理論的対立点であるからです。

「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会」への賛同の呼びかけ PDF

関西生コン事件ニュースNo.48  ココをクリック

なぜ、いま戦後最大規模の刑事弾圧が労働組合に加えられているのか!?
641日勾留された武委員長が語る

「関西生コン事件」で逮捕された武建一委員長は今年5月29日、641日ぶりに保釈された。その1ヵ月後に収録されたロングインタビューをまとめた本が昨年12月10日発刊された。
・一連の事件は、なぜ起きたのか?
・関生支部とはどのような労働組合なのか?
・武建一という人物はいったい何者なのか?
そんな疑問に事実をもって答える1冊。ぜひ、お読みください。『武建一が語る 大資本はなぜ私たちを恐れるのか
発行・旬報社、四六判218ページ、定価1500円+税
*全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)にお申し込みいただければ頒価1500円(送料込み)でお届けします。多部数の場合はお問い合わせください。
お問い合わせ03-5820-0868
【目 次】
第1章 刑事弾圧
641日にもおよんだ勾留生活/なぜ私は逮捕されたのか/協同組合の変質/労組破壊に参加したレイシスト
第2章 「タコ部屋」の過酷労働
私の生い立ち/「練り屋」と呼ばれて/労働運動に目覚める/関生支部の誕生/初めての解雇
第3章 闘いの軌跡
万博不況とオイルショック/ヤクザと生コン/経済界が恐れる産業別労働運動
第4章 大同団結
安値乱売で「がけっぷち」/大阪広域協組の誕生/シャブコン/2005年の弾圧事件/ゼネスト決行/目指すべき場所
解題・安田浩一(ジャーナリスト)
皆様には御元気で御活躍のことと存じます。
この間、全国の多くの皆様より私たち関生支部に対する国家権力と大阪広域生コンクリート協同組合、差別排外主義者集団が一体となった攻撃をはね返す闘いに、多大な御支援をいただきまして誠にありがとうございます。
このたび、著書『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を昨年12月10日に発行する運びとなりました。
今日まで、私は、会社の雇ったヤクザに5回以上殺されかけたり、刑事事件をでっち上げられ前科5犯にさせられています。
1980年代には日経連の大槻文平会長(当時)から「関生型運動は資本主義の根幹に触れる」と言われ、国家権力とマスコミからは「生コンのドン」「金を企業からむしり取る」などとして「反社会的勢力」とレッテルを貼られています。
それはなぜか。歴史と今日を振り返り、事実を元に書かせていただいています。
是非、一読下さい。
心より愛をこめて
武 建一

amazonでも購入できます。ココをクリック