森友学園をめぐる財務省の公文書改ざん問題の国家賠償請求訴訟
赤木さんは森友学園の土地売買を巡り財務省理財局から公文書偽造を指示され、その罪悪から自らの命を絶った。その妻である雅子さんが真相の究明を求めて始めた国家賠償請求訴訟が12月15日、国が請求を認めたことで終結した。原告である雅子さんは強く求めていた真相解明が果たせなくなった怒りに声を震わせ訴えた。
赤木さんの手記
この事実を知り抵抗したとはいえ関わってきたものとしての責任をどう取るかずっと考えてきました。
事実を公的な場所でしっかりと説明することが出来ません。
今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした。(55才の春を迎えることが出来ない儚さと怖さ)
家族(もっとも大切な家内)を泣かせ彼女の人生を破壊させたのは本省理財局です。
私の大好きな義母さん、謝っても、気が狂うほどの怖さと、辛さこんな人生って何?
兄、甥っ子、そして実父、みんなに迷惑をおかけしました。
さようなら
(赤木俊夫氏の手記より)
国は賠償を認諾し幕引きをはかった
公務災害として最愛の夫を亡くした赤木雅子さん。上記に記しているのは赤木さんの遺書ともとれる一節である。2019年、赤木ファイルの開示を求めたが送られてきたのは真っ黒に塗りつぶされたいわゆる「のり弁」。国の不誠実な対応に2020年3月、真相究明を求め提訴した国家賠償請訴訟である。この裁判で求めた「赤木ファイル」の開示をコロナ蔓延を理由に期限を一方的に翌21年5月14日まで延長。21年9月16日第三者機関である人事院情報公開・個人情報保護審査会が「違法なものであり、取り消すべきである。」として黒塗りした原対応を取り消すよう命じた。情報が開示されたことで事実関係の一端が明らかになり、さらなる文書開示を求めている最中の出来事であった。
想定外の政府対応に地裁側も協議中断
報道によると、大阪地裁で行われた進行協議が始まってまもなく、国側の代理人が立ち上がり「認諾します」と宣言。原告の追加主張などの内容を再検討した結果、「いたずらに訴訟を長引かせるのは適切ではなく、決裁文書の改ざんという重大な行為の重大性に鑑み、認諾する」とし、請求額の1億700万円を支払うことを決めた。
原告側は「信義則に反する」と反発し、地裁側も「想定外」として、民事訴訟法の手続き確認などのため協議を一時中断した。このような裁判の事実上の打ち切りだ。
夫は国に二度殺された
その後の記者会見で雅子さんは「ふざけんなと思った」と憤りをあらわにし、「(自殺した)夫に何を言ったらいいのか。これから先どう訴えていけばいいのか方法が見当たらない」と涙ながらに語った。代理人の生越照幸弁護士は「不意打ちで不誠実、極めて卑劣だ」と国の対応を非難した。松丸正弁護士も「これ以上解明されると不都合な事実があったと考えなければあり得ない」と語気を強めた。雅子さんは10月6日、手紙で、俊夫さんが公文書の改ざんに反発していたのに対し、財務省がどのように対応したかがこれまで明らかになっていないと指摘。「正しいことが正しいといえない社会はおかしい。岸田首相なら分かってくださると思う」とした上で、「第三者による再調査で真相を明らかにしてください」と訴えている。
この裁判はそもそもお金を得るために起こした裁判ではない。夫が自死に追い込まれた経緯を真相解明するため起こした裁判である。政局で幕引きをしていいものではない。安倍政権成立以降不正な統計や偽装が次々と明らかになっている。景気動向や経済政策の指標となる重要な統計である厚生労働省の毎月勤労統計調査。国土交通省の「建設工事受注動態統計」のデータの書き換えによる二重計上問題も明らかになっている。現在においても改竄を指示されている公務員もいるだろう。第2の赤木さんを作り出さないためにも真相究明を求めているのだ。
主人は私たち国民だ。国は説明責任を果たせ。
賠償金は私たちの税金から支払われる。税金を使う以上政府は国民にたいして細やかな説明を行う義務がある。生前赤木さんが言っていたように国家公務員の雇用主である私たちが真相究明も声を上げなければならない。
私の国に対する損害賠償の裁判は、国が認諾したことで終わりました。
国が認諾したことについて、私は強く抗議します。ふざけるなと言いたいです。こんな形で終わってしまったことが悔しくて仕方ありません。
この裁判は、夫がなぜ死んだのかを知るための裁判でした。でも、国の認諾によってもう知ることができません。そのようなことでは、またきっと夫と同じように自殺に追い込まれる公務員が出てくるでしょう。自分で何があったのか説明したがっていた夫も、とても悔しがっていると思います。
国の認諾は、不意打ちですし、あまりに酷いと思います。裁判官も知りませんでした。国は、これ以上裁判が進むと事実が明らかになっていくので、真相を隠すために認諾をしたのでしょう。本当に酷いと思います。
私は夫が国に殺されたと思っています。そして認諾によって夫はまた国に殺されてしまったと思います。夫は遺書で「最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」と書いています。また認諾によってしっぽを切られたのだと思います。
私も夫も国の認諾は絶対に許しません。国は夫が亡くなったことと認諾したことについて、私に謝罪すべきですし、認諾するようになった経緯や理由を説明すべきです。
赤木雅子
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業界の組合つぶし、そこへヘイト集団も加わり、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合つぶしが行なわれているのか。
迫真のルポでその真実を明らかにする。
目次 : プロローグ
第1章 「賃金が上がらない国」の底で
第2章 労働運動が「犯罪」になった日
第3章 ヘイトの次に警察が来た
第4章 労働分野の解釈改憲
第5章 経営側は何を恐れたのか
第6章 影の主役としてのメディア
第7章 労働者が国を訴えた日
エピローグ
【著者紹介】
竹信三恵子 : ジャーナリスト・和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社、経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)、2011‐2019年和光大学現代人間学部教授。著書に『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書、日本労働ペンクラブ賞)など。貧困や雇用劣化、非正規労働者問題についての先駆的な報道活動に対し、2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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