沖縄戦の歴史改ざんがもたらす危険性
自衛隊学習資料と教科書問題から考える
陸上自衛隊の学習資料と沖縄の教科書検定を巡る一連の問題は、日本の歴史認識、特に沖縄戦を巡る歴史観が依然として不安定であることを浮き彫りにしています。この問題の根源には、歴史を政治的・イデオロギー的な目的のために利用しようとする意図が存在すると考えられます。
「歴史の歪曲に潜む意図」
2024年6月、市民団体の情報公開請求によって、陸上自衛隊幹部候補生学校の沖縄戦に関する学習資料の内容が明らかになりました。当初の資料には、旧日本軍第32軍による持久戦を「本土決戦準備のための偉大な貢献」と肯定的に評価する記述や、住民の犠牲に触れていない部分があることが判明しました。この問題に対し、日本共産党の赤嶺政賢衆議院議員が追及したことで、防衛大臣は資料の見直しを約束し、問題の記述は削除されました。
しかし、この改訂版には新たな問題が浮上しました。旧版にあった「旧日本軍が住民をスパイ視して虐殺した」「住民を壕から追い出した」といった記述や、「自決(強制集団死)」の表現が削除され、「日本軍が住民を避難させた」という記述に置き換えられていたのです。これは、沖縄戦で多くの住民が直面した旧日本軍による加害行為を意図的に隠蔽し、歴史を歪曲する試みであると指摘されています。
「「集団自決」教科書検定問題と歴史修正主義」
このような歴史改ざんの動きは、過去にも繰り返されてきました。特に顕著だったのが、沖縄戦における「集団自決」を巡る教科書検定問題です。2000年代、文部科学省の教科書検定において、「日本軍の強制」という記述を削除するよう検定意見が付いたことが大きな社会問題となりました。多くの歴史研究者や生存者が、日本軍による命令や強制があったと証言しているにもかかわらず、政府がその事実を曖昧にしようとしたため、沖縄県民の激しい抗議運動に発展しました。結果的に、文部科学省は異例の再検討を行い、「軍の強制」**を認める記述が教科書に戻されることになりました。
この問題は、歴史を政治的・イデオロギー的な目的のために利用しようとする動きが、公教育にまで影響をおよぼしていることを示しています。特定の勢力は、戦後日本の「自虐史観」を克服し、「誇りある日本」の物語を構築しようと試みています。この文脈において、沖縄戦の「集団自決」は「日本軍の強制」という側面を薄め、代わりに「住民が自ら日本を護るために戦った」という美談へと書き換えようとする意図が見え隠れします。このような歴史観の変更は、日本の軍事力増強やナショナリズムの強化を正当化する土台となり得るのです。
「戦前の教育への反省と未来への責任」
戦前、日本は国策に沿った歴史教育を徹底しました。軍国主義的な価値観を国民に植え付け、「国のために命を捧げること」を美化する教育が行われた結果、多くの国民が戦争へと突き進むことになりました。この過ちを繰り返さないため、戦後の教育は、歴史の事実を客観的に学び、多角的な視点から物事を捉えることを重視してきました。
今回の歴史改ざんの動きは、まさに戦前のような教育に回帰しようとする危険な兆候です。歴史から都合の悪い部分を排除し、特定のイデオロギーに沿った物語を次世代に教え込もうとすることは、過去の失敗から何も学んでいないと言わざるを得ません。沖縄戦における日本軍の加害行為を矮小化することは、戦争の悲劇を美化し、軍事行動への抵抗を減らす効果を狙ったものです。これは、国家が都合の良い歴史を国民に強制し、国民を戦争に動員した戦前の教育と本質的に同じ構造を持っています。
私たちは、過去の失敗を教訓とし、歴史の事実から目をそらさず、真実を正しく伝える責任があります。歴史修正主義的な動きに強い警戒心を持ち、私たちが自らの手で真実を見極める力を養う必要があります。沖縄戦の真実を正しく継承することは、二度と戦争を繰り返さないための教訓であり、未来の平和を築くための第一歩なのです。

中島光孝/著
出版社名 白澤社
ページ数 334p
発売日 2025年06月
販売価格 : 3,400円 (税込:3,740円)
目次
第一部 弁論が開かれた最高裁判決(ハマキョウレックス事件、日本郵便〔西日本〕事件―「非正規格差」をどう是正するか
空知太神社事件最高裁判決―政教分離原則違反はだれがどのような基準で判断すべきか
水俣病訴訟―公害企業救済か被害者救済か)
第二部 「戦争」にまつわる判決(大阪・花岡中国人強制連行国賠請求訴訟―国家の「強制」による「加害」を国家はいかに償うべきか
台湾靖国訴訟・小泉靖国訴訟―台湾原住民族はなぜ「靖国合祀」を拒否するか
「アベ的なるもの」との三〇年―フィリピン元「従軍慰安婦」補償請求訴訟/「君が代」斉唱拒否訴訟/安倍国葬違法支出公費返還請求住民訴訟)
第三部 労働組合をめぐる判決(三菱重工長崎造船所〔労働時間〕事件―「労働と労働組合活動」を考える
住友ゴム工業事件・近鉄高架下文具店長事件―「職場の労働組合活動」を考える
関西生コン支部刑事弾圧事件―「労働基本権保障」の意味を考える)
真相はこれだ!関生事件 無罪判決!【竹信三恵子の信じられないホントの話】20250411【デモクラシータイムス】
ご存じですか、「関西生コン」事件。3月には、組合の委員長に対して懲役10年の求刑がされていた事件で京都地裁で完全無罪判決が出ました。無罪判決を獲得した湯川委員長と弁護人をお呼びして、竹信三恵子が事件の真相と2018年からの一連の組合弾圧事件の背景を深堀します。 今でも、「関西生コン事件」は、先鋭な、あるいは乱暴な労働組合が強面の不法な交渉をして逮捕された事件、と思っておられる方も多いようです。しかしそうではありません。企業横断的な「産別組合」が憲法上の労働基本権を行使しただけで、正当な交渉や職場環境の改善運動だったから、強要や恐喝など刑事事件には当たらないものでした。裁判所の判断もこの点を明確にしています。では、なぜ暴力的組合の非行であるかのように喧伝され、関西全域の警察と検察が組織的に刑事事件化することになったのか、その大きな背景にも興味は尽きません。 tansaのサイトに組合員お一人お一人のインタビューも連載されています。ぜひ、どんな顔をもった、どんな人生を歩んできた人たちが、濡れ衣を着せられ逮捕勾留されて裁判の法廷に引き出されたのかも知っていただきたいと思います。
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増補版 賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国
勝利判決が続く一方で新たな弾圧も――
朝⽇新聞、東京新聞に書評が載り話題となった書籍の増補版!関生事件のその後について「補章」を加筆。
1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけだ。そんな中、関西生コン労組は、労組の活動を通じて、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も、実現した。そこへヘイト集団が妨害を加え、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合潰しが行なわれているのか。迫真のルポでその真実を明らかにする。初版は2021年。本書はその後を加筆した増補版である。
◆主な目次
はじめに――増補にあたって
プロローグ
第1章 「賃金が上がらない国」の底で
第2章 労働運動が「犯罪」になった日
第3章 ヘイトの次に警察が来た
第4章 労働分野の解釈改憲
第5章 経営側は何を恐れたのか
第6章 影の主役としてのメディア
第7章 労働者が国を訴えた日
エピローグ
補章 反攻の始まり
増補版おわりに
映画 ここから 「関西生コン事件」と私たちこの映画は「フツーの仕事がしたい」「アリ地獄天国」など労働問題を取り上げ注目を浴びている土屋トカチ監督の最新作。「関西生コン事件」の渦中にある組合員たちの姿を描いた待望のドキュメンタリー映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』がこのほど完成。業界・警察・検察が一体となった空前の労働組合潰しに直面した組合員と家族の物語を見つめた。(左写真は松尾聖子さん)いまも各地で上映会がひらかれているお問い合わせはコチラ ココをクリック
ー 公判予定 ー
| 10月31日 国賠裁判 東京地裁(判決) | 15:00~ |
|---|---|
| 11月18日 大津第2次事件 大阪高裁(判決) | 14:30~ |