身体拘束は最後の手段とするべきである

日本の刑事訴訟法は、刑事裁判を進めるうえで必要不可欠な場合に限り、身体拘束することを認めています。「必要不可欠な場合」とは、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、逃亡もしくは罪証(証拠)隠滅の危険があるときです。
近代の根本法則である「無罪推定の法理」と密接に関係しています。憲法31条は、「国民の生命や自由を守るため、公権力が刑罰権を乱用しないように定めており、被疑者や被告人はまだ有罪と決まっていないのだから、無罪の者として扱わなければならない」この考え方に基づけば、身体拘束は例外的で最後の手段とするべきです。

「身体不拘束の原則」と呼ぶこの憲法の精神は、戦後まもなく在官した若い裁判官たちの間では共有されていました。勾留請求の却下も、裁判官の誇るべき職責として、普通に行われた時期があったようです。
ところが、裁判官の却下決定に対し、検察官が準抗告すると勾留請求が通ることが多くなりました。また、請求を却下する傾向が強い新人裁判官には勾留審査を担当させないといった事例もありました。
学生運動が激しくなった1960年代半ばごろから裁判所内の統制が次第に強まり、請求を却下する裁判官は少なくなりました。

勾留請求却下率が上昇

勾留請求却下率は、2003年から上昇に転じています。
2014年に最高裁第一小法廷は、痴漢事件の被疑者の勾留を認めた高裁の決定と、詐欺事件の被告人の保釈を認めなかった高裁の判断を相次いで取り消しました。証拠隠滅の現実的可能性が高くなければならないことを示唆したものです。
そして、却下率はなお低水準のままとはいえ、2015年に2.6%まで上がりました。刑事弁護に熱心に取り組む弁護士の粘り強い努力の成果であり、裁判所の中でも風向きが変わりつつあります。

「起訴前保釈制度」導入すべきである

「身体不拘束の原則」をより確実に実施するには、「起訴前保釈制度」導入すべきだと考えます。現在は起訴後にしかない保釈を、起訴前も認める。逃亡を防ぐために一定の保証金を納めさせ、証拠隠滅を防ぐため行動範囲を制限するといった条件をつけ、釈放するのです。
いまは警察や検察が主導して逮捕や勾留請求の手続きが進んでいます。ここに被疑者や弁護人による保釈請求の手続きが入ることで、「安易に身体拘束すればいい」という考え方は変わるでしょう。

警察の留置施設で処遇される代用監獄制度や、最大23日間(警察が逮捕すると48時間以内に検察に送致、検察は24時間以内に勾留請求、20日間の勾留が認められた場合)昼夜を問わず捜査機関が取り調べるという実態も、見直さざるをえません。これらは人権侵害であり、虚偽自白によるえん罪の原因でもあるのです。身体拘束は本来、取り調べのためのにあるのではありません。

「起訴前保釈制度」の導入は、法制審の特別部会でも議論の俎上には上がりましたが、早々と検討の対象から外され、昨年の刑事訴訟法改正では実現しませんでした。証拠隠滅の余地が大きく、取り調べに支障があると、警察や検察が抵抗したからです。
この抵抗は「証拠を隠そうという抽象的な危険性さえあれば、取り調べのために身柄をおさえる必要がある」という不合理な前提にたっています。
でも今は、証拠隠滅の現実的可能性が高くなければ、身体拘束を続けるべきではないという考え方が有力になっています。身体拘束は、逃亡や証拠隠滅を防ぐための例外的で最後の手段だという憲法、刑事訴訟法の基本を見誤っています。刑事司法改革は早急な立て直しが必要です。

(豊崎七絵、九州大学法学研究院教授)

大衆運動で仲間を取り戻そう!

この教授のお話には、法的な根拠も含め説得力があります。警察や検察による現在の「人質司法」は、大きな問題があることがよくわかります。
私たちは、この矛盾を拡大して訴えることと、関生支部をはじめ闘う労働組合に対する権力弾圧に打ち勝つための陣形をつくることが求められています。
しっかりと学習して、敵の矛盾点を突き詰め、大衆行動によって不当に勾留されている仲間を取り戻しましょう。

「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会」への賛同の呼びかけ
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