労働組合が問いかける日本の司法の矛盾 冤罪はなぜ起きたのか?
湖東記念病院事件の冤罪は、元看護助手の西山美香さんの人生を狂わせただけでなく、日本の司法制度の根深い矛盾を露呈させました。労働組合の観点からこの事件を見ると、これは単なる司法の問題ではなく、弱い立場の労働者が権力に屈服させられる構造的な問題が潜んでいることがわかります。なぜ、彼女の人生を奪った当事者たちは、誰一人として責任を問われないのでしょうか。
「労働者の権利を無視した「組織」の圧力」
西山美香さんの事件では、警察という強大な権力が、一人で闘うしかない非正規雇用の看護助手を追い詰めました。虚偽の自白を誘導する際、警察は西山さんの恋愛感情を利用したとされています。これは、労働者が上司や組織から受けるハラスメントの構図と似ています。個人の弱みにつけ込み、心理的に支配し、不当な要求を強いる。この手口は、警察が捜査の過程で個人の尊厳をいかに軽視しているかを物語っています。
国家賠償訴訟で、裁判所は警察の取り調べに違法性があったと認定しました。しかし、警察は個人ではなく、「組織」として謝罪することで責任を回避しました。これは、問題を起こした個人が責任を問われず、代わりに組織が頭を下げるという、日本の企業社会でよく見られる構図です。しかし、労働組合の立場からすれば、このような対応は到底許されるものではありません。個人の責任を曖昧にすることは、再発防止を本気で考える姿勢がないことの表れであり、再び同様の不当な扱いを受ける労働者を生み出す温床となるからです。
「誰も責任を取らない「組織」の論理」
この事件では、警察、検察、裁判官という、労働者を守るべき司法の三つの柱すべてが機能不全に陥りました。警察は不当な捜査を行い、検察はそれを信じて起訴し、裁判官は無批判に有罪判決を下しました。この連鎖的なミスの結果、西山さんは長期間にわたる苦痛を強いられました。しかし、彼らは誰も懲戒処分を受けていません。
日本の制度では、裁判官の「判断の誤り」は、個人的な責任を問う対象になりにくいとされています。また、検察官や警察官も、職務上の判断として守られることが多いです。これは、組織を守るための論理であり、個人の人権や尊厳よりも、組織の保身が優先されるという深刻な現実を示しています。労働組合の闘いは、常にこの組織の論理と対峙するものです。弱い立場にある労働者を守るには、組織の論理を打ち破り、個人の尊厳と権利を確立しなければなりません。
「労働者の人権を守るための闘いへ」
湖東記念病院事件は、単なる冤罪事件ではなく、司法という「権力」が、弱い立場にある労働者の人権をいかに容易に侵害しうるかを示す象徴的な事件です。私たちが闘うべき相手は、不当な労働条件を強いる企業だけではありません。司法の場で、労働者の尊厳と権利が不当に侵害されたとき、それを放置しないことも、私たちの重要な使命です。
私たちは、この事件を通じて、司法制度の構造的な問題を問い続けなければなりません。なぜ、虚偽の自白を誘導した刑事は罰せられないのか?なぜ、事件を作り上げた検察官は罰せられないのか?なぜ、無実の人間を苦しめた裁判官は責任を取らないのか?これらの問いに答えが出ない限り、私たちはいつ、どこで、不当な権力の犠牲になるかわからないのです。
西山美香さんが失った時間は戻ってくることはありません。
この事件は、労働者一人ひとりが自らの権利を守る意識を持つこと、そしてその権利が不当に侵害されたときに、声を上げる勇気を持つことの重要性を、私たちに訴えかけています。

中島光孝/著
出版社名 白澤社
ページ数 334p
発売日 2025年06月
販売価格 : 3,400円 (税込:3,740円)
目次
第一部 弁論が開かれた最高裁判決(ハマキョウレックス事件、日本郵便〔西日本〕事件―「非正規格差」をどう是正するか
空知太神社事件最高裁判決―政教分離原則違反はだれがどのような基準で判断すべきか
水俣病訴訟―公害企業救済か被害者救済か)
第二部 「戦争」にまつわる判決(大阪・花岡中国人強制連行国賠請求訴訟―国家の「強制」による「加害」を国家はいかに償うべきか
台湾靖国訴訟・小泉靖国訴訟―台湾原住民族はなぜ「靖国合祀」を拒否するか
「アベ的なるもの」との三〇年―フィリピン元「従軍慰安婦」補償請求訴訟/「君が代」斉唱拒否訴訟/安倍国葬違法支出公費返還請求住民訴訟)
第三部 労働組合をめぐる判決(三菱重工長崎造船所〔労働時間〕事件―「労働と労働組合活動」を考える
住友ゴム工業事件・近鉄高架下文具店長事件―「職場の労働組合活動」を考える
関西生コン支部刑事弾圧事件―「労働基本権保障」の意味を考える)
真相はこれだ!関生事件 無罪判決!【竹信三恵子の信じられないホントの話】20250411【デモクラシータイムス】
ご存じですか、「関西生コン」事件。3月には、組合の委員長に対して懲役10年の求刑がされていた事件で京都地裁で完全無罪判決が出ました。無罪判決を獲得した湯川委員長と弁護人をお呼びして、竹信三恵子が事件の真相と2018年からの一連の組合弾圧事件の背景を深堀します。 今でも、「関西生コン事件」は、先鋭な、あるいは乱暴な労働組合が強面の不法な交渉をして逮捕された事件、と思っておられる方も多いようです。しかしそうではありません。企業横断的な「産別組合」が憲法上の労働基本権を行使しただけで、正当な交渉や職場環境の改善運動だったから、強要や恐喝など刑事事件には当たらないものでした。裁判所の判断もこの点を明確にしています。では、なぜ暴力的組合の非行であるかのように喧伝され、関西全域の警察と検察が組織的に刑事事件化することになったのか、その大きな背景にも興味は尽きません。 tansaのサイトに組合員お一人お一人のインタビューも連載されています。ぜひ、どんな顔をもった、どんな人生を歩んできた人たちが、濡れ衣を着せられ逮捕勾留されて裁判の法廷に引き出されたのかも知っていただきたいと思います。
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増補版 賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国
勝利判決が続く一方で新たな弾圧も――
朝⽇新聞、東京新聞に書評が載り話題となった書籍の増補版!関生事件のその後について「補章」を加筆。
1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけだ。そんな中、関西生コン労組は、労組の活動を通じて、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も、実現した。そこへヘイト集団が妨害を加え、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合潰しが行なわれているのか。迫真のルポでその真実を明らかにする。初版は2021年。本書はその後を加筆した増補版である。
◆主な目次
はじめに――増補にあたって
プロローグ
第1章 「賃金が上がらない国」の底で
第2章 労働運動が「犯罪」になった日
第3章 ヘイトの次に警察が来た
第4章 労働分野の解釈改憲
第5章 経営側は何を恐れたのか
第6章 影の主役としてのメディア
第7章 労働者が国を訴えた日
エピローグ
補章 反攻の始まり
増補版おわりに

この映画は「フツーの仕事がしたい」「アリ地獄天国」など労働問題を取り上げ注目を浴びている土屋トカチ監督の最新作。「関西生コン事件」の渦中にある組合員たちの姿を描いた待望のドキュメンタリー映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』がこのほど完成。業界・警察・検察が一体となった空前の労働組合潰しに直面した組合員と家族の物語を見つめた。(左写真は松尾聖子さん)いまも各地で上映会がひらかれている。
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ー 公判予定 ー
10月31日 国賠裁判 東京地裁(判決) | 15:00~ |
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11月18日 大津第2次事件 大阪高裁(判決) | 14:30~ |