「関西生コン支部の運動と弾圧の背景」(No.4)
木下武男(労働社会学者・元昭和女子大学教授)
昨年(2019年)10月14日に行われた「関西地区生コン支部への弾圧を許さない10.14東京集会」での木下武男さん講演を採取して紹介します。(文中、写真、グラフ、図は木下武男さん提供によるものです)
No.3からのつづき…

「歴史的な4つの教訓」

それで少し難しい話しになっていきますけど、関生支部の闘いの運動のどこに優れた点があるかという本題に入ります。4点にまとめてみました。「本当の労働組合」という言い方をしていますが、マルクスとエンゲルスの言葉を引用します。彼らは社会主義の理論と実践に貢献した偉大な人物であることはもちろん承知しておりますけれども、私はここでは、彼らを実は労働組合が誕生、成長したその目撃者として注目しています。このことは学問の世界ではほとんど無視されています。彼ら二人が生まれ、青春の時期は19世紀前半でした。労働組合が職業別労働組合として確立するのは19世紀後半ですので、したがってまだ確立していません。しかし芽が出て、どんどん育ってくる。それを二人は注目しました。
労働組合は前からあったわけではなく、例えば労働者協同組合のようなもの、これをつくることにロバート・オーエンは貢献しました。また共済団体もありました。ラダイト運動のような打ち壊しという労働者の激しい運動もありました。
その中でユニオンという労働者組織が初めて姿を現したときに、マルクスとエンゲルスはそこで何を感じたのかということです。マルクスが言っていたのは労働者が劣悪な条件に置かれている。それはもちろん経営者が支配、抑圧しているからであり、政府や経営者が団結を弾圧しているからです。しかし問題は労働者の内部にもあるのではないか。そのことを彼らは見て取ったのです。
「労働者の不団結は、労働者自身のあいだの避けられない競争によって生み出され、長く維持される」(マルクス、1866年)
「労働者相互間の競争こそ、現在労働者がおかれている状態の中でもっとも悪い面であり、資本家の持っている労働者に対するもっとも鋭い武器なのである」(エンゲルス、1845年)
彼らは、競争の概念を使って説明しました。労働者の状態は労働者自身の相互の競争によって悲惨な境遇に追い込まれている。だから労働組合の使命は単純で、それをひっくり返す、つまり競争を規制するところにあります。
「組合と、これらの組合からおこってくるストライキは、競争を廃止してしまおうとする労働者の最初の試みである」(エンゲルス)
「労働組合は、この競争を止揚し、労働者間の結合でこれに代わらせようとすることを、目的とする」(マルクス、1847年)
マルクスとエンゲルスは競争規制の詳細は述べませんでしたが、ウェッブ夫妻という労働組合論で有名な研究者は、これを「共通規制」と「集合取引」という言葉で説明しました。労働者の「個人取引」、これは競争なんですね。イラストは、経営者がいて、労働者が競争している当たり前の状態を表しています。経営者の下で4人の労働者が競争して職を求めようとする。そのときに、「お前」というのは、労働者間の競争の中で一番低い賃金でもいいとする者に対する「お前」を雇うということなのです。これが「個人取引」です。
これをひっくり返すにはちょっと難しいんですが、「共通規制」が必要とされます。つまり競争している者たちにこれ以下では労働力商品を売るな、ということです。この基準が「共通規制」なのです。
じゃあ、その代わりにわれわれが代表して、労働力商品をまとめて、売りつけてやる、これが「集合取引」なのです。次の図を見て下さい。これ以上安売りしてはダメだよ、バーゲンセールをしてはダメです。ユニオンが代表して、まとめ売りをする。
これが関生支部の「教訓1」です。これは先ほどの「共通規制」は関生の運動では業種別・職種別賃金です。賃金に関して職種別賃金を設定したということです。
戦後労働運動でのこれまでの企業内の賃上げは、属人基準でなされていました。属人基準というのは企業の枠を越えられない、企業を超えた賃金設定ができないのです。年齢や勤続、家族数、個人の働きぶりや能力の評価。これは企業の中で決まります。企業の中にしか通用しない賃金に対して企業を超えた賃金を設定する。関生支部は企業を超えて職種という基準で「共通規制」をつくり出すことができた。これが教訓です。
1973年に、大型運転手に最低保証10万円を集団交渉参加の企業との間で確認し、1982年には「業種別・職種別賃金体系」を労資で確認することで、この段階から職種別賃金にしていくということが長い闘いの中で実現しました。全自型賃金のところでも触れましたが、年功賃金が支配的な中で労働運動のなかでこれができたことは、実は画期的なことなのです。武委員長にお聞きすると「そんなに議論が紛糾した様子もない」とのことですけど、ある意味では当時の生コン運転手の賃金が低すぎたという点もあるかもしれません。低いから年齢や家族数でいろいろと格差をつけるのではなく、むしろ横断的に決めてしまう。私は研究者ですので、そのところは学問的にはもっと知りたい、興味があるところです。
No.5につづく…

※木下武男(きのした たけお)さん。1944年生まれ。労働社会学者。法政大学で非常勤講師14年間、労働組合論の講義。元昭和女子大学教授。著書に『日本人の賃金』(平凡社新書)、『格差社会に挑むユニオン』(花伝社)など。
最新著書(2021年3月19日刊行)『労働組合とは何か』(岩波新書・900円)

※「序局」第23号(2020.01)に掲載された記事を、発行責任者・編集責任者の許可を得て掲載しています。

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「関生事件」が揺るがす労働基本権
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挑戦を受ける労働基本権保障――一審判決(大阪・京都)にみる産業別労働運動の無知・無理解 (検証・関西生コン事件1)(日本語) 単行本 – 2021/4/20

業者団体と警察・検察が一体となった組合弾圧=「関西生コン事件」がはじまって4年。
労働法研究者、自治体議員、弁護士の抗議声明が出され、労働委員会があいついで組合勝利の救済命令を下す一方、裁判所は産業別労働組合への無知・無理解から不当判決を出している。
あらためて「関西生コン事件」の本質、不当判決の問題点を明らかにする!
連帯ユニオン(著)、小谷野 毅(著)、熊沢 誠(著)、& 2 その他
発行・旬報社、定価800円+税

「関西生コン事件」がはじまってから4年目となります。
関生支部(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部)を標的として、大阪広域生コンクリート協同組合(大阪広域協組)が日々雇用組合員の就労拒否(400人以上)、正社員組合員の解雇、業界あげての団交拒否を開始したのが2018年1月。このあからさまな不当労働行為の尻馬に乗って、滋賀県警が半年後の2017年7~8月にかけて組合員と生コン業者ら10人を恐喝未遂容疑で逮捕しました。その後、大阪、京都、和歌山の三府県警が、2019年11月にかけて、じつに11の刑事事件を仕立てあげ、のべ89人もの組合員と事業者を逮捕。数え上げるとじつに計18回も逮捕劇がくりかえされ、のべ71人が起訴される事態に発展しました。いずれも、ストライキやビラまき、建設現場の法令違反を調査、申告するなどして公正な取引環境を実現するためのコンプライアンス活動、破産・倒産に対して雇用確保を求める工場占拠闘争など、あたりまえの労働組合活動が、恐喝未遂、恐喝、強要未遂、威力業務妨害といった刑事事件とされたものです。
業者団体と警察・検察が表裏一体となった組合弾圧、それが「関西生コン事件」です。
これに対し、歴代の労働法学会代表理事経験者を多数ふくむ78人の労働法学者が2019年12月、憲法28条の労働基本権保障や労働組合法の刑事免責を蹂躙する警察・検察、そしてそれを追認する裁判所を批判して「組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない」とする声明を公表しました。全国各地の120人超の自治体議員の抗議声明、弁護士130人の抗議声明なども出されます。また、自治労、日教組などの労働組合や市民団体がつくる平和フォーラムが母体となって「関西生コンを支援する会」が結成されたのをはじめ、各地で支援組織が2019~20年にかけてあいつぎ結成されます。「関西生コン事件」は関生支部だけの問題ではない、労働組合の権利そのものを脅かす事態だという認識が広がっています。
さらに、冒頭に述べた一連の解雇、就労拒否、団交拒否に対抗すべく関生支部が申し立てた20件近い不当労働行為事件において、大阪府労働委員会が2019年秋以降、あいつぎ組合勝利の救済命令を下しています。その数は命令・決定12件のうち10件(2021年4月現在。大半が中央労働委員会に再審査事件として係属)。団結権侵害を主導した大阪広域協組の責任が明確になってきました。
一方、11件の刑事事件はその後、各事件の分離、併合の結果、大阪、京都、和歌山、大津の四地裁において8つの裁判に整理され、審理がすすめられ、現在までに、大阪ストライキ二次事件(2020年10月)、加茂生コン第一事件(同年12月)、大阪ストライキ一次事件(2021年3月)の3つの一審判決が出されています。
これら判決は、労働委員会事件で出された勝利命令とは対照的に、いずれも労働組合運動に対する浅薄な理解と認識をもとに、大阪広域協組の約束違反や企業の不当労働行為を免罪する一方で、産業別労働組合としての関生支部の正当な活動を敵視するものとなっています。
そこで、この機会に、あらためて「関西生コン事件」とはなにか、また、これら不当判決の問題点はなにかを、労働組合運動にたずさわる活動家のみなさまをはじめ、弁護士、研究者、ジャーナリストのみなさまに一緒に考えていただくために、裁判や労働委員会に提出された研究者の鑑定意見書などを収録した『検証・「関西生コン事件」』を随時発刊することにしました。
控訴審において無罪判決を勝ち取るために努力するのはもちろんのことですが、不当判決を反面教師として、先達が築いてきた労働運動の諸権利を学び直し、新たな運動を創造していくことが私たちに求められていると考えます。本書がその手がかりとして活用されることを願ってやみません。
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なぜ、いま戦後最大規模の刑事弾圧が労働組合に加えられているのか!?
641日勾留された武委員長が語る

「関西生コン事件」で逮捕された武建一委員長は今年5月29日、641日ぶりに保釈された。その1ヵ月後に収録されたロングインタビューをまとめた本が昨年12月10日発刊された。
・一連の事件は、なぜ起きたのか?
・関生支部とはどのような労働組合なのか?
・武建一という人物はいったい何者なのか?
そんな疑問に事実をもって答える1冊。ぜひ、お読みください。『武建一が語る 大資本はなぜ私たちを恐れるのか
発行・旬報社、四六判218ページ、定価1500円+税
*全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)にお申し込みいただければ頒価1500円(送料込み)でお届けします。多部数の場合はお問い合わせください。
お問い合わせ03-5820-0868
【目 次】
第1章 刑事弾圧
641日にもおよんだ勾留生活/なぜ私は逮捕されたのか/協同組合の変質/労組破壊に参加したレイシスト
第2章 「タコ部屋」の過酷労働
私の生い立ち/「練り屋」と呼ばれて/労働運動に目覚める/関生支部の誕生/初めての解雇
第3章 闘いの軌跡
万博不況とオイルショック/ヤクザと生コン/経済界が恐れる産業別労働運動
第4章 大同団結
安値乱売で「がけっぷち」/大阪広域協組の誕生/シャブコン/2005年の弾圧事件/ゼネスト決行/目指すべき場所
解題・安田浩一(ジャーナリスト)
皆様には御元気で御活躍のことと存じます。
この間、全国の多くの皆様より私たち関生支部に対する国家権力と大阪広域生コンクリート協同組合、差別排外主義者集団が一体となった攻撃をはね返す闘いに、多大な御支援をいただきまして誠にありがとうございます。
このたび、著書『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を昨年12月10日に発行する運びとなりました。
今日まで、私は、会社の雇ったヤクザに5回以上殺されかけたり、刑事事件をでっち上げられ前科5犯にさせられています。
1980年代には日経連の大槻文平会長(当時)から「関生型運動は資本主義の根幹に触れる」と言われ、国家権力とマスコミからは「生コンのドン」「金を企業からむしり取る」などとして「反社会的勢力」とレッテルを貼られています。
それはなぜか。歴史と今日を振り返り、事実を元に書かせていただいています。
是非、一読下さい。
心より愛をこめて
武 建一

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