「共に生きるとは何か」-難民の声、家族の歴史から考えた多様性(関生組合員からの投稿)

7月13日に弁天町にあるHRCで、「共に生きるとは何か」―難民の声、家族の歴史から考えた多様性―をテーマに、テレビでも活躍されているフォトジャーナリストの安田菜津紀さんの講演会が行われ、関生支部・人権部から2名が参加しました。

「あらゆる戦争犯罪は、正当に罰せられるべきだ」

まず始めに、ユーモアを交えた自己紹介が行われ、なんて心地いい話し方をする方なのだと思ったのが最初の印象でした。
続いて2018年2月にパレスチナ地区・ガザ地区に訪れた際に、安田さんが撮影されたコバルトブルーの海上にある船に乗っている漁師さんの写真を見ました。安田さんは、友人からこの人たちは、彼らは遠くまでいけないのだと説明を受けました。
安田さんは、「ガザでは失業率が50%、とりわけ若者の失業率は70%にのぼります。欲しい未来が描けない。人間らしい暮らしが遅れない構造的な暴力になっています。ガザ侵攻から確認されるだけで、死者は6万人に迫っています。あらゆる戦争犯罪は、正当に罰せられるべきだと思っています。」と話されました。
私は、安田さんの講演を受けて、東日本大震災以降、ガザの子どもたちが毎年3月に手紙を書き、復興を願って凧揚げをしているということを初めて知りました。2018年当時、安田さんが参加していた14歳の女の子に、どうして参加しようと思ったのかと尋ねると、「私は、幼いころから日本人の送ってくれた文房具やカバン、手紙をもらって大きくなってきました。ガザの子は、空爆で自分の家が壊れることの辛さを知っています。地震で同時にたくさんの家が壊れる様子を映像で見た衝撃を今でも忘れられません」と話してくれたそうです。安田さんは、彼女とその後もフェイスブックを通して、やり取りをしていたそうですが、2023年10月以降メッセージが既読になりません。今頃どうなっているのか、元気でいるのか、無事を祈らずにいられません。と心を痛めておられました。

「お父さん、日本人じゃないみたいだよ」

安田さんは、ご自身のルーツについてもお話しされました。「母は、絵本の読み聞かせをたくさんしてくださる人でした。小学校に上がる前だったか、上がってすぐだったか、ある時父に「お父さんお帰り」と駆け寄って行って、自分が読んでいる絵本を、その日は父に差し出して、「今日はお父さんが読んで」とお願いをしました。 仕事帰りだったので、多分疲れていたと思いますが、父は嫌な顔一つせず、私を膝の上に乗せてくれて、その本を読み始めようとするんですが、スラスラと読むことができませんでした。一つの文章の中で、何回も何回もつっかえる。「なんでそんなところでつかえるの? おかしいよ」というところで。私はその絵本を読み終える前にしびれを切らして「もう、いい」とその絵本を突き返して、父にこう言いました。 「ねえ、お父さん、変だよ。お父さんはどうして、お母さんみたいに絵本が読めないの?お父さん、日本人じゃないみたいだよ」と、私が言い放った時の父親の顔。私は多分一生忘れないと思っています。私が言い放った一言が、父親にとってどれぐらい残酷な一言なのか、まだ知らないころでした。」

「自分のアイデンティティにこだわって調べていく」

16歳になった安田さんは、パスポートを作る際に、その当時まで全く思ってもみなかったことを知ることになります。安田さんが中学2年生のときに亡くなった父親が、在日コリアン2世だったことを初めて知りました。その時のことも話してくださいました。
「パスポートを作るためには、戸籍を求められますね。「何が書いてあるんだろう?」と、何気ない気持ちで戸籍を見た時に、父親の欄に見慣れない文字を見つけました。「韓国籍って書いてある…」そこで私は、中学2年生の時に亡くなった父が在日コリアンだったことを、初めて知ることになりました。思いもよらないことだったので、アイデンティティの前でフリーズしたまま、家に帰って恐る恐る「これって聞いていいことなのかな」と思いながら、母に尋ねてみました。母親は、知っている限りのことは全て話してくれたと思います。父が日本生まれの在日コリアンの2世であったこと。1948年生まれなので、まだ戦後の混乱を残していたころですよね。「出自もあってか、とても複雑な家庭に生まれて、教育の機会にうまくつながることができない人だった。何かは具体的には言ってくれなかったけど、話ぶりからどうやら自分の出自によって嫌な思いをしたことがあるみたい。だから、日本人として生きよう、日本人になりきろう、それを徹底しようとした人だったんだよ。でもそれ以上のことは……。家族がどんな人で、どこからやってきて、いつやってきたのかは、私には一切を話してくれなかった」と。母がどこかさびしそうに話してくれたのを覚えています。」
それまで、全く思ってみなかったことを知って、大変驚かれたと同時に、幼い頃絵本を読んでもらった時に言ってしまった言葉と繋がり、苦しかっただろうなと思いました。安田さんは、「自分のアイデンティティにこだわって、いろいろなことを調べていく。私自身は日本人、日本国籍者として生まれ,けれども父親のルーツは朝鮮半島にあるという私自身の立場だからこそ、もしかしたら届けられるものがあるかもしれないと考えています。」と話しました。

「子どもが変われば、家庭が変わる。家庭が変われば、地域が変わる」

川崎市にふれあい館というところがあります。日本人と韓国・朝鮮人を主とする在日外国人が、市民として子どもからお年寄りまで相互にふれあいをすすめることを目的としている場所です。そこでは日本の子どもたちが、在日韓国人の方からキムチ作りなどを教わることがあるそうです。教えてくださる方たちは、昔では考えられない事だったと喜んでいるそうです。 安田さんは、子どもが変われば、家庭が変わる。家庭が変われば、地域が変わるとおっしゃられていて、確かに子どもが家庭内に与える影響は大きいので、素敵な取り組みだと思いました。

「遠くに離れているからこそできること、差別をとめようと発言すること」

シリアでは、2011年から始まった「アラブの春」をきっかけに政治や社会に対し、不満を抱いた国民により抗議やデモが行われ、アサド政権がデモなどを強行的に弾圧したことで内戦へと発展。IS(イスラム国)が台頭し、シリア国民は当たり前の日常が、自分たちの力ではどうにもならない力で奪われてしまいました。
シリアは2024年時点、世界で最も多い難民数となりました。そのなかで、2024年に日本が難民として認定した人数は190人です。190人の中には、アフガニスタンのタリバン政権復活により日本に退避してきた102人が含まれています。対してシリアから日本と同じような距離にあるカナダの2024年難民受け入れ人数は、およそ46,480人だそうです。 安田さんは、「今回の参議院選は、多様性と正反対。選挙運動にかこつけてヘイトスピーチが行われています。日本人ファーストという言葉が使われていますが、日本人ファーストって外国人を受け入れてもいません。排外主義的で不安に思って過ごしている人は、たくさんいます。」と参議院選挙運動の異様さを指摘されていました。
最後に「『この狂気を止めよう』とガザでの虐殺に異を唱えたイスラエルの高校教師は、職を解雇され、「反逆罪」で逮捕されました。私たちは、遠くに離れているからこそできることがあります。差別をとめようと発言することはできます。」という安田さんの言葉が、とても印象的でした。

安田菜津紀さんプロフィール
認定NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

(※ 記事=K組合員)

私的判決論 人々の権利の実現をめざして

中島光孝/著
出版社名 白澤社
ページ数 334p
発売日 2025年06月
販売価格 : 3,400円 (税込:3,740円)
目次
第一部 弁論が開かれた最高裁判決(ハマキョウレックス事件、日本郵便〔西日本〕事件―「非正規格差」をどう是正するか
空知太神社事件最高裁判決―政教分離原則違反はだれがどのような基準で判断すべきか
水俣病訴訟―公害企業救済か被害者救済か)
第二部 「戦争」にまつわる判決(大阪・花岡中国人強制連行国賠請求訴訟―国家の「強制」による「加害」を国家はいかに償うべきか
台湾靖国訴訟・小泉靖国訴訟―台湾原住民族はなぜ「靖国合祀」を拒否するか
「アベ的なるもの」との三〇年―フィリピン元「従軍慰安婦」補償請求訴訟/「君が代」斉唱拒否訴訟/安倍国葬違法支出公費返還請求住民訴訟)
第三部 労働組合をめぐる判決(三菱重工長崎造船所〔労働時間〕事件―「労働と労働組合活動」を考える
住友ゴム工業事件・近鉄高架下文具店長事件―「職場の労働組合活動」を考える
関西生コン支部刑事弾圧事件―「労働基本権保障」の意味を考える)

 

真相はこれだ!関生事件 無罪判決!【竹信三恵子の信じられないホントの話】20250411【デモクラシータイムス】

ご存じですか、「関西生コン」事件。3月には、組合の委員長に対して懲役10年の求刑がされていた事件で京都地裁で完全無罪判決が出ました。無罪判決を獲得した湯川委員長と弁護人をお呼びして、竹信三恵子が事件の真相と2018年からの一連の組合弾圧事件の背景を深堀します。 今でも、「関西生コン事件」は、先鋭な、あるいは乱暴な労働組合が強面の不法な交渉をして逮捕された事件、と思っておられる方も多いようです。しかしそうではありません。企業横断的な「産別組合」が憲法上の労働基本権を行使しただけで、正当な交渉や職場環境の改善運動だったから、強要や恐喝など刑事事件には当たらないものでした。裁判所の判断もこの点を明確にしています。では、なぜ暴力的組合の非行であるかのように喧伝され、関西全域の警察と検察が組織的に刑事事件化することになったのか、その大きな背景にも興味は尽きません。 tansaのサイトに組合員お一人お一人のインタビューも連載されています。ぜひ、どんな顔をもった、どんな人生を歩んできた人たちが、濡れ衣を着せられ逮捕勾留されて裁判の法廷に引き出されたのかも知っていただきたいと思います。
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増補版 賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国

竹信三恵子 (著) 旬報社 – 2025/1/30

勝利判決が続く一方で新たな弾圧も――
朝⽇新聞、東京新聞に書評が載り話題となった書籍の増補版!関生事件のその後について「補章」を加筆。
1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけだ。そんな中、関西生コン労組は、労組の活動を通じて、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も、実現した。そこへヘイト集団が妨害を加え、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合潰しが行なわれているのか。迫真のルポでその真実を明らかにする。初版は2021年。本書はその後を加筆した増補版である。
◆主な目次
  はじめに――増補にあたって
  プロローグ
  第1章 「賃金が上がらない国」の底で
  第2章 労働運動が「犯罪」になった日
  第3章 ヘイトの次に警察が来た
  第4章 労働分野の解釈改憲
  第5章 経営側は何を恐れたのか
  第6章 影の主役としてのメディア
  第7章 労働者が国を訴えた日
  エピローグ
  補章 反攻の始まり
  増補版おわりに

映画 ここから 「関西生コン事件」と私たち
この映画は「フツーの仕事がしたい」「アリ地獄天国」など労働問題を取り上げ注目を浴びている土屋トカチ監督の最新作。「関西生コン事件」の渦中にある組合員たちの姿を描いた待望のドキュメンタリー映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』がこのほど完成。業界・警察・検察が一体となった空前の労働組合潰しに直面した組合員と家族の物語を見つめた。(左写真は松尾聖子さん)いまも各地で上映会がひらかれている。
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ー 公判予定 ー

10月31日    国賠裁判      東京地裁(判決)   15:00~
11月18日    大津第2次事件   大阪高裁(判決)   14:30~