国家賠償請求訴訟 不当判決に対する抗議声明を発表
10月31日、東京地方裁判所において大寄麻代裁判長が言い渡した「関西生コン事件」国家賠償請求訴訟の全面棄却判決に対し、11月3日、全日本建設運輸連帯労働組合(中央本部・近畿地方本部・関西地区生コン支部連名)と関西生コンを支援する会/平和フォーラムがそれぞれ抗議声明を発表しました。
両声明は、この判決が、組合員への長期勾留(人質司法)や黙秘権侵害といった国家権力による不当な組合弾圧を容認したものであり、憲法が保障する労働者の権利を侵害するものだと強く非難しています。
◆ 全日本建設運輸連帯労働組合抗議声明
中央執行委員長 菊池 進
全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部
執行委員長 細野直也
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部
執行委員長 湯川裕司
1.10月31日、関西生コン事件・国家賠償請求訴訟で、東京地方裁判所(民事第1部、大寄麻代裁判長)は、組合側の請求をいずれも棄却する判決を出した。
国賠訴訟の争点は、❶警察官や検察官による組合つぶし発言の違法性、❷湯川裕司委員長(当時は副委員長)に対する644日間の恣意的長期勾留の違法性、❸組合専従の武谷新吾副委員長(当時は書記次長)に対する組合事務所への出入りと組合員との面談などを禁じた保釈条件の違法性、❹西山直洋執行委員の別件民事裁判への証人出廷を妨害する目的でなされた逮捕の違法性だった。
2.一審判決の不当性を端的に示すのは争点❶についての判断である。
横麻由子検事は組合員の黙秘権を侵害して組合脱退勧奨発言をくりかえした。一審判決は、「黙秘してずっとまたこれからも労組員続けていきますよっていうのが、本当にそれでいいんかなって思うんですよね」、「暴力団組織とかの一員で上が怖いから話せませんとかいうパターンもそりゃあるだろうし」、「別にだれかが怖くてとかそういうのは、あんのかな」などの横検事の発言が、関生支部の組合員である「山本が原告組合に所属し続けることに対する否定的な見方を示した発言といえる」とまでは認定せざるをえなかった。
しかし、これら発言は、「山本に対して、関生支部や山本の活動には労働組合としての正当な活動ないし社会的相当性を越える部分が存在する嫌疑があるという捜査機関の認識を前提に、山本にその活動の正当性を振り返らせ、反省を促し、任意の供述を得ようと説得を試みる必要があった」ことからみれば「取調べの方法ないし態様として不当であるとはいえない」から、「原告組合の団結権を考慮しても、社会通念上許容される範囲を逸脱したものとは認められない」というのである。判決は横検事を擁護する立場をあらわにして発言を恣意的に解釈しているというほかない。
さらに、山本組合員が合計143回も「黙秘します」と発言していたにもかかわらず、横検事が執拗に取調べをつづけたことについても「合理的な範囲を越えているとはいえない」「社会通念上相当と認められる範囲を逸脱し違法となるものとはいえない」としてかばい立てするのである。
また、多田副検事による「削る」発言については、さすがに「捜査機関が、今後原告組合らの組合員数を減少させ、その勢いを削いでいくことを企図していると受け止められてもやむを得ないものが含まれて」いたとは認めざるをえなかった。ところが、そこまで認めはしたものの、判決はつづけて、「その表現方法が適切であったかは疑問の余地があるといわざるを得ない」として問題を表現方法に矮小化する。そして、検察側が証人尋問でおこなった見苦しい弁解をそのまま取り入れて、「発言全体をみれば、労働組合としての正当な活動を超える部分に係る違法な活動は捜査機関として是正していくという趣旨の発言と理解されるものであり・・・原告組合を弾圧したり、弱体化させるという意図を述べたものとは解されない」、したがって、「取調べにおいて社会通念上許容される範囲を逸脱したものとは認められ」ないなどと結論づけて多田副検事も擁護してみせるのである。
警察や検察はいつから労働組合活動のあり方について口出ししたり、反省を促したりする権限まで持つようになったのだろうか。強く違和感を覚えずにはいられない。
組合は国賠訴訟において、横検事、多田副検事以外にも組合脱退を迫る警察・検察の違法捜査の事例をいくつもとりあげた。滋賀県警の警察官は取調べにおいて、「関生辞めてたら任意の事情聴取で済んだ」、「辞めるんだったら、ええ方法を考えたる」、「子どもより組織が大事か」、「組合をやめるというまで気長に待つ」「(弁護士選任にあたり)私選と国選選ぶときに、組合の弁護士は組合のことしか考えないから止めた方が良い」などと発言し、組合員はこの発言を「被疑者ノート」に書き記していた。
しかし、判決は、「被疑者ノートは断片的であり」、実際に警察官がそのような発言をしたと認めるに足りないから、「組合脱退に関して一定の発言があったとしても、それが社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した取調べであると認定できないし、原告組合らの団結権を侵害する行為に当るということもできない」とした。
3.湯川委員長は、事件を細分化して8回くりかえし逮捕され644日間も勾留された。組合側はこれら恣意的長期勾留は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)や、人身の自由並びに迅速な裁判を受ける権利(憲法31条、34条、37条1項)、そして、湯川委員長の団結権を侵害する違法行為だと主張した。
これに対し判決は、「逮捕及び勾留は各被疑事実を基準としてされるべきものである(事件単位の原則)からすれば、各事件それぞれに個別に逮捕及び勾留の要件を満たして順次拘束がなされ、それが通算すると長期になったからといって、直ちに勾留の必要性を欠く違法なものということはできない」などとする形式論理をもって、また、自由権規約は「条約そのものではなく法的拘束力がなく」、「一般的意見」であるなどとして国賠法上の違法行為とはいえないとして組合側の主張を退けた。
4.判決は、確定した和歌山広域協組事件大阪高裁無罪判決に対して難癖を付けている点についてもふれておくべきだろう。
大阪高裁判決は、一審判決が有罪の判断の証拠として採用した元組合員らの供述は信用性がないとくりかえし厳しく批判しており、それが無罪の判断要素の一部となっていた。だが、国賠訴訟判決は「その信用性に疑問があるとはいえ(供述が)存在していた」と肯定的に評価してみせ、だから無罪判決が出されているとはいえ、西山執行委員の逮捕、勾留にはその当時、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり・・・警察官及び検察官の判断が不合理であるとまではいえない」と強弁するのである。
組合側は、和歌山事件の捜査責任者と起訴検事の証人尋問において、かれらが産業別労働組合の団体行動の正当性について無知・無理解であったこと、その誤った理解をもとに暴力団を使って組合の団結権を侵害した事業者に抗議した活動を違法視して組合員を逮捕、起訴したことを十分に立証した。しかし、判決は肝心なその問題点については目をつぶり、無罪判決が信用性がないと批判した元組合員らの供述をもとに違法な逮捕、起訴を正当化してみせたのである。
5.国賠訴訟の提訴は2020年3月。当時は大阪スト事件はじめ一審有罪判決がいくつか出されて逆風が吹きまくっていた時期だった。無罪判決はまだ1件もなかったが、やられっぱなしの状況に突破口を開こうと提訴にふみきった。しかし、それから5年の闘いを経て確定した無罪判決は4件のべ12名に及んでいる。
警察、検察、生コン業者団体が一体となって組合つぶし目的で仕組んだのが一連の刑事事件だったことはもはやあきらかだ。大手メディアも労働事件として「関西生コン事件」をとりあげるようになった。今年春、国会では警察庁と法務省が「無罪判決は真摯に受け止める必要がある」と答弁せざるをえなかった。
ところが今回の判決はこうした捜査機関にとっては不都合な真実を司法の立場から直視して戒めるどころか、警察・検察の違法行為に限りなくお墨付きを与えるものとなっている。到底許すことはできない。
われわれは不当な一審判決を徹底的に批判し、控訴審において全面勝訴を獲得すべく奮闘する決意である。
◆ 関西生コンを支援する会/平和フォーラム声明
傍聴席は、虚を突かれたように静まり返った。団体交渉やストライキなどの正当な労働組合活動に加わった組合員が、恐喝や強要未遂の疑いで摘発された「関西生コン事件」を巡る国家賠償請求訴訟の一審判決が10月31日、東京地裁で出された。判決は「原告の請求を棄却する」というもので、労働組合への弾圧や組合つぶしを目的とした警察や検察、裁判所の違法捜査や長期勾留などの責任を不問とするこの不当判決に「関西生コン事件を支援する会」は満腔の怒りをもって抗議する。
「関西生コン事件」は、2018年7月~2019年11月にかけて、組合員延べ81名が逮捕され、延べ66名が起訴された事件である。会社や権力側が労働組合を反社会的集団とみなし、正当な組合活動を恐喝や威力業務妨害という犯罪としてでっち上げ、これを司法が追認するという驚愕すべき実態が明らかにされてきた。
組合員の刑事裁判は様々に分離併合されながら8つの裁判で審理され、2025年10月段階で既に4つの裁判が集結している。❶和歌山広域協組事件は2023年3月に大阪高裁で組合員3名に逆転無罪判決が出され、検察が上告を断念して無罪が確定している。その他にも、❷タイヨー事件、❸コンプライアンス第2事件(ビラまき)、❹加茂生コン第1事件の4件12名に対し無罪判決が確定している。日本の司法では起訴されると 99.9 %が有罪となる中、異例ともいえる率で無罪となっていることは、一連の摘発が労働組合の弾圧を目的とした不当なものであることが明らかである。
6月26日の最終弁論で再生された取調べの記録映像では、取り調べにあたった検事が「私は一人でやっているわけじゃない。警察と検察官は何人もいるからね。これを機会として、皆さん連帯きちっと削ってくださいよって話もあるわけですよね。当然やりますよ」という発言が明らかにされた。こうした恫喝といえる不当な取り調べの実態や、明らかに恣意的な捜査であったことがはっきりしているにもかかわらず、この日の判決では、「(検事の発言は)表現方法が適切だったかは疑問の余地がある」と指摘したものの、「組合を弾圧し、弱体化させる意図を述べたものとは解されない」とするなど、捜査過程の権力側の重大な不当性を一顧だにしないものであった。こうした国家権力と企業が一体となった労働組合への弾圧と敵視攻撃は、権力の乱用に他ならず、労働運動や草の根の市民運動を萎縮させる意図があったものと捉えざるを得ない。
戦前の軍国主義・全体主義の台頭は、労働運動の存在そのものが否定され、“産業報国”のスローガンによって1940年頃はすべての労働組合が自発的な解散に追い込まれ、日本は第二次世界大戦に参戦していくことになった。民主的で公正、公平な社会を実現するためにも労働組合が不当なことに毅然と異を唱える姿勢が問われ、その先頭にこの関西生コン事件があり、私たちの底力が試されている。「関西生コン事件を支援する会」は引き続き、今回の不当判決に屈することなく闘いを継続し、全国の仲間の皆さんとともに奮闘することを決意する。
2025年11月3日
フォーラム平和・人権・環境 共同代表
染 裕之
真相はこれだ!関生事件 無罪判決!【竹信三恵子の信じられないホントの話】20250411【デモクラシータイムス】
ご存じですか、「関西生コン」事件。3月には、組合の委員長に対して懲役10年の求刑がされていた事件で京都地裁で完全無罪判決が出ました。無罪判決を獲得した湯川委員長と弁護人をお呼びして、竹信三恵子が事件の真相と2018年からの一連の組合弾圧事件の背景を深堀します。 今でも、「関西生コン事件」は、先鋭な、あるいは乱暴な労働組合が強面の不法な交渉をして逮捕された事件、と思っておられる方も多いようです。しかしそうではありません。企業横断的な「産別組合」が憲法上の労働基本権を行使しただけで、正当な交渉や職場環境の改善運動だったから、強要や恐喝など刑事事件には当たらないものでした。裁判所の判断もこの点を明確にしています。では、なぜ暴力的組合の非行であるかのように喧伝され、関西全域の警察と検察が組織的に刑事事件化することになったのか、その大きな背景にも興味は尽きません。 tansaのサイトに組合員お一人お一人のインタビューも連載されています。ぜひ、どんな顔をもった、どんな人生を歩んできた人たちが、濡れ衣を着せられ逮捕勾留されて裁判の法廷に引き出されたのかも知っていただきたいと思います。
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増補版 賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国
勝利判決が続く一方で新たな弾圧も――
朝⽇新聞、東京新聞に書評が載り話題となった書籍の増補版!関生事件のその後について「補章」を加筆。
1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけだ。そんな中、関西生コン労組は、労組の活動を通じて、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も、実現した。そこへヘイト集団が妨害を加え、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合潰しが行なわれているのか。迫真のルポでその真実を明らかにする。初版は2021年。本書はその後を加筆した増補版である。
◆主な目次
  はじめに――増補にあたって
  プロローグ
  第1章 「賃金が上がらない国」の底で
  第2章 労働運動が「犯罪」になった日
  第3章 ヘイトの次に警察が来た
  第4章 労働分野の解釈改憲
  第5章 経営側は何を恐れたのか
  第6章 影の主役としてのメディア
  第7章 労働者が国を訴えた日
  エピローグ
  補章 反攻の始まり
  増補版おわりに
映画 ここから 「関西生コン事件」と私たちこの映画は「フツーの仕事がしたい」「アリ地獄天国」など労働問題を取り上げ注目を浴びている土屋トカチ監督の最新作。「関西生コン事件」の渦中にある組合員たちの姿を描いた待望のドキュメンタリー映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』がこのほど完成。業界・警察・検察が一体となった空前の労働組合潰しに直面した組合員と家族の物語を見つめた。(左写真は松尾聖子さん)いまも各地で上映会がひらかれている。
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ー 公判予定 ー
| 11月18日 大津第2次事件 大阪高裁(判決) |  
 14:30~  | 
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