「労働組合を苦しめてきた共謀罪」

関生支部は「共謀罪反対」を掲げてストライキを行った数少ない労働組合の一つである。その共謀罪の「祖国」はイギリスである。イギリス法に共謀罪が登場するのは13世紀、誣告罪(ぶこくざい。現在の「虚偽告訴罪」)が最初だ。これがより一般的な共謀罪に発展することとなるのは、絶対王政下でヘンリー8世が制定した国家反逆罪に適用されたのがきっかけとされる。
特に有名な事件は1605年の「火薬陰謀事件」である。ガイ・フォークスらカトリック教徒たちは、プロテスタントのジェームズ1世を暗殺することを企て、国会議事堂の爆破を計画し、火薬を地下鉄に運びこんでいるところを見つかり、逮捕され、拷問され、絞首刑に処せられた。逮捕のきっかけは密告であった。この日は、王の暗殺が避けられたことを祝う国民の祝日とされている。
1721年のジャーニメン・テイラー事件では、織物工で構成される労働組合が、一定額以下の工賃では法制の仕事をしないと合意、すなわちストライキを計画したことに対して、コモンロー上の共謀罪が適用された。コモンローとは、明文法ではなく、多くの判例と慣習法によって形成された法体系である。このケースは、労働組合運動に初めて共謀罪が適用された例とされる。1800年には「団結禁止法」が制定され、労働組合の結成そのものが禁止された。イギリス共謀法理はこの段階に至って、国家への犯罪を取り締まる法理から労働組合運動に対する弾圧法理へと変質した。1824年に団結禁止法は撤廃され、その後ストライキが激発した。1825年労働者団結法では、組合の結成そのものは認められたが、ストライキへの共謀罪の適用は続いた。
1860年代にシェフィールドで少数の労働組合武装勢力によって暴動と殺人事件が発生した。当時のシェフィールドの鉄鋼業はきわめて劣悪な労働環境と長時間労働によって多くの労働者が若くして命を失っていた。労働者が経営者やスト破りを殺害していくという凄惨な事件は社会全体に大きな衝撃を与えた。ストライキが非合法化された状況での絶望的な抵抗であった。
この暴動を受け、この事件の原因と対策を検討するための王立委員会が設置され、労働組合について、多数意見は弾圧強化の意見を具申したが、このレポートには労働組合を公認するべきであるという少数意見が付されていた。1871年には自由党のグラッドストーンによって労働組合法が制定され、この少数意見が取り入れられた。1874年の総選挙後、デイズレーリの保守党が政権についたが、約束通り、労働組合に関する新たな法律を可決した。この「共謀と財産の保護法」は、労働組合が個人によって行われた場合に合法となる行為に対して起訴されないという原則を確立した。たとえば、労働者が仕事をやめることは違法ではなく、労働組合がストライキを組織した場合も、訴追することはできなくなった。この法律の下で、平和的なピケッティングが労使紛争中に行われることが認められたのである。
共謀罪には勃興期のイギリス労働運動を150年にもわたって苦しめ続けた前科がある。そして、今、21世の日本で、ストライキで労働者の労働条件の改善を求めて闘ってきた、関生支部という産業別労働組合による労働運動が、共謀罪型の弾圧によって、解体の危機にさらされているのである。

…つづく
海渡雄一(かいど・ゆういち)
1955年生まれ。弁護士。日本弁護士連合会秘密保護法対策本部副本部長。著書に『秘密保護法 何が問題か』(岩波書店、共著)、『何のための秘密保全法か』『共謀罪とは何か』(岩波ブックレット、共に共著)など多数。


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