「関西生コン支部の運動と弾圧の背景」(No.3)
木下武男(労働社会学者・元昭和女子大学教授)
昨年(2019年)10月14日に行われた「関西地区生コン支部への弾圧を許さない10.14東京集会」での木下武男さん講演を採取して紹介します。(文中、写真、グラフ、図は木下武男さん提供によるものです)
No.2からのつづき…

「『全自型賃金』を引き継いだ『職種別賃金』」

ここで賃金の話しをしますと、電産型賃金とも言うべき立派な賃金体系を全自はつくたっと考えています。年功賃金を読みかえた形で、賃金は右肩上がりですが、年齢や勤続年数で上げていくのではなく、経験年数で上げていくのです。これはジョブ型賃金と私は表現していますが、実は欧米はもちろん世界共通の基準です。重要なのは、客観的にはこの全自型賃金を引き継いだのが関生支部の職種別賃金です。そういう意味では全自のリーダーは最後は悲運な状態でしたが、戦後労働運動の中で非常に優れたリーダーだと私は思います。
ということで、お話ししたかったことはこの産業別組合を破滅する二つの弾圧を思い起こすならば、関生支部に対する弾圧は半端ではない。つぶすまでやるんではないかとわれわれは受けとめ、反撃の態勢を固めるべきだと思います。

「関生支部運動の教訓」

次の弾圧の時代的背景をみたいと思います。この戦後労働運動が実は残念ながら「1950年代争議」、私はそういう言い方をしますが、その民間大企業の争議は戦後の歴史の中で50年代だけです。その民間大企業の最後を飾ったのが三井三池の争議です。60年の三井三池の敗北以降、民間大企業の大きな労働争議は一つもありません。その意味では、労働運動は長い間、経営側に追い込まれてきた。
追い込まれた中で一筋の光明、これが関生支部の運動だと位置づけるべきだと思います。それがグラフです。これは半日以上のストライキのグラフです。「労働損失日数」、つまりストライキの件数と参加した人数です。1975年、私はここを「労働運動の暗転」と呼んでいますが、これが起きました。なぜ起きたのか。先ほど塩路の話をしましたけれども、日産に限らず、あらかた民間大企業の労働組合の指導権が、労使癒着のユニオンリーダーに変わっていく。これが75年の前です。1989年の連合の結成というのは、1975年以降にイニシアチブを握った彼らの姿です。その意味では民間大企業の労働運動をどのように再構築していくのか、という課題は戦略的に長い道のりで位置づけなければならないと思います。
次のグラフは、加盟単産別組合員数です。総評、全労連、全労協という評価は分かれ、いろいろ問題があったことも確かです。しかし現在のこの二つを見ても右肩下がりで、衰退の一途をたどっているわけです。なぜか。全労連、全労協が衰退しているのは、闘うか闘わないかということもありますが、加盟している公務員組合の地方公務員の数が激減しているからです。二つとも地方公務員の比率が高いナショナル・センターです。正規職員に非正規がどんどん入れ替わっている。組合員数ががた減りになっている。それが反映して全労連と全労協は、ゼロに向かってなだらかに衰退傾向を示しています。
いかに未組織労働者を組織化していくのか、ここに戦後労働運動の命脈がかかっていると言えるでしょう。衰退の局面のどん詰まりで労働者を組織化していく、これ以外に後退を前進に切り替える道はないと思います。それを全国に砂のごとく存在する企業で、一つ一つ企業ごとに組織するのか。あるいは業種別・職種別に一網打尽に組織するのか、ここに関生支部の運動に注目すべき論点があります。生コン労働者だけじゃなくてバラセメントの労働者や圧送労働者に広がっています。さらにはトラック運転の労働者、タクシー、私鉄バス、観光バス、あるいは保育士や介護士、看護師、医療関係職種、ITエンジニア、ベンダー労働者、建設労働者、コンビニ労働者、そのように業種別・職種別の視点から未組織労働者を組織するならば、それは大きな組織的な飛躍になるだろうと思います。
それを含めて、労働運動の後退局面の中で一筋の光明となっている関生運動を、経営側は消し去ろうとしている。ここに戦後労働運動の歴史の中からみた攻防があるのではないか、ということを指摘したいと思います。
No.4につづく…

※木下武男(きのした たけお)さん。1944年生まれ。労働社会学者。法政大学で非常勤講師14年間、労働組合論の講義。元昭和女子大学教授。著書に『日本人の賃金』(平凡社新書)、『格差社会に挑むユニオン』(花伝社)など。
最新著書(2021年3月19日刊行)『労働組合とは何か』(岩波新書・900円)

※「序局」第23号(2020.01)に掲載された記事を、発行責任者・編集責任者の許可を得て掲載しています。

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挑戦を受ける労働基本権保障――一審判決(大阪・京都)にみる産業別労働運動の無知・無理解 (検証・関西生コン事件1)(日本語) 単行本 – 2021/4/20

業者団体と警察・検察が一体となった組合弾圧=「関西生コン事件」がはじまって4年。
労働法研究者、自治体議員、弁護士の抗議声明が出され、労働委員会があいついで組合勝利の救済命令を下す一方、裁判所は産業別労働組合への無知・無理解から不当判決を出している。
あらためて「関西生コン事件」の本質、不当判決の問題点を明らかにする!
連帯ユニオン(著)、小谷野 毅(著)、熊沢 誠(著)、& 2 その他
発行・旬報社、定価800円+税

「関西生コン事件」がはじまってから4年目となります。
関生支部(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部)を標的として、大阪広域生コンクリート協同組合(大阪広域協組)が日々雇用組合員の就労拒否(400人以上)、正社員組合員の解雇、業界あげての団交拒否を開始したのが2018年1月。このあからさまな不当労働行為の尻馬に乗って、滋賀県警が半年後の2017年7~8月にかけて組合員と生コン業者ら10人を恐喝未遂容疑で逮捕しました。その後、大阪、京都、和歌山の三府県警が、2019年11月にかけて、じつに11の刑事事件を仕立てあげ、のべ89人もの組合員と事業者を逮捕。数え上げるとじつに計18回も逮捕劇がくりかえされ、のべ71人が起訴される事態に発展しました。いずれも、ストライキやビラまき、建設現場の法令違反を調査、申告するなどして公正な取引環境を実現するためのコンプライアンス活動、破産・倒産に対して雇用確保を求める工場占拠闘争など、あたりまえの労働組合活動が、恐喝未遂、恐喝、強要未遂、威力業務妨害といった刑事事件とされたものです。
業者団体と警察・検察が表裏一体となった組合弾圧、それが「関西生コン事件」です。
これに対し、歴代の労働法学会代表理事経験者を多数ふくむ78人の労働法学者が2019年12月、憲法28条の労働基本権保障や労働組合法の刑事免責を蹂躙する警察・検察、そしてそれを追認する裁判所を批判して「組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない」とする声明を公表しました。全国各地の120人超の自治体議員の抗議声明、弁護士130人の抗議声明なども出されます。また、自治労、日教組などの労働組合や市民団体がつくる平和フォーラムが母体となって「関西生コンを支援する会」が結成されたのをはじめ、各地で支援組織が2019~20年にかけてあいつぎ結成されます。「関西生コン事件」は関生支部だけの問題ではない、労働組合の権利そのものを脅かす事態だという認識が広がっています。
さらに、冒頭に述べた一連の解雇、就労拒否、団交拒否に対抗すべく関生支部が申し立てた20件近い不当労働行為事件において、大阪府労働委員会が2019年秋以降、あいつぎ組合勝利の救済命令を下しています。その数は命令・決定12件のうち10件(2021年4月現在。大半が中央労働委員会に再審査事件として係属)。団結権侵害を主導した大阪広域協組の責任が明確になってきました。
一方、11件の刑事事件はその後、各事件の分離、併合の結果、大阪、京都、和歌山、大津の四地裁において8つの裁判に整理され、審理がすすめられ、現在までに、大阪ストライキ二次事件(2020年10月)、加茂生コン第一事件(同年12月)、大阪ストライキ一次事件(2021年3月)の3つの一審判決が出されています。
これら判決は、労働委員会事件で出された勝利命令とは対照的に、いずれも労働組合運動に対する浅薄な理解と認識をもとに、大阪広域協組の約束違反や企業の不当労働行為を免罪する一方で、産業別労働組合としての関生支部の正当な活動を敵視するものとなっています。
そこで、この機会に、あらためて「関西生コン事件」とはなにか、また、これら不当判決の問題点はなにかを、労働組合運動にたずさわる活動家のみなさまをはじめ、弁護士、研究者、ジャーナリストのみなさまに一緒に考えていただくために、裁判や労働委員会に提出された研究者の鑑定意見書などを収録した『検証・「関西生コン事件」』を随時発刊することにしました。
控訴審において無罪判決を勝ち取るために努力するのはもちろんのことですが、不当判決を反面教師として、先達が築いてきた労働運動の諸権利を学び直し、新たな運動を創造していくことが私たちに求められていると考えます。本書がその手がかりとして活用されることを願ってやみません。
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なぜ、いま戦後最大規模の刑事弾圧が労働組合に加えられているのか!?
641日勾留された武委員長が語る

「関西生コン事件」で逮捕された武建一委員長は今年5月29日、641日ぶりに保釈された。その1ヵ月後に収録されたロングインタビューをまとめた本が昨年12月10日発刊された。
・一連の事件は、なぜ起きたのか?
・関生支部とはどのような労働組合なのか?
・武建一という人物はいったい何者なのか?
そんな疑問に事実をもって答える1冊。ぜひ、お読みください。『武建一が語る 大資本はなぜ私たちを恐れるのか
発行・旬報社、四六判218ページ、定価1500円+税
*全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)にお申し込みいただければ頒価1500円(送料込み)でお届けします。多部数の場合はお問い合わせください。
お問い合わせ03-5820-0868
【目 次】
第1章 刑事弾圧
641日にもおよんだ勾留生活/なぜ私は逮捕されたのか/協同組合の変質/労組破壊に参加したレイシスト
第2章 「タコ部屋」の過酷労働
私の生い立ち/「練り屋」と呼ばれて/労働運動に目覚める/関生支部の誕生/初めての解雇
第3章 闘いの軌跡
万博不況とオイルショック/ヤクザと生コン/経済界が恐れる産業別労働運動
第4章 大同団結
安値乱売で「がけっぷち」/大阪広域協組の誕生/シャブコン/2005年の弾圧事件/ゼネスト決行/目指すべき場所
解題・安田浩一(ジャーナリスト)
皆様には御元気で御活躍のことと存じます。
この間、全国の多くの皆様より私たち関生支部に対する国家権力と大阪広域生コンクリート協同組合、差別排外主義者集団が一体となった攻撃をはね返す闘いに、多大な御支援をいただきまして誠にありがとうございます。
このたび、著書『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を昨年12月10日に発行する運びとなりました。
今日まで、私は、会社の雇ったヤクザに5回以上殺されかけたり、刑事事件をでっち上げられ前科5犯にさせられています。
1980年代には日経連の大槻文平会長(当時)から「関生型運動は資本主義の根幹に触れる」と言われ、国家権力とマスコミからは「生コンのドン」「金を企業からむしり取る」などとして「反社会的勢力」とレッテルを貼られています。
それはなぜか。歴史と今日を振り返り、事実を元に書かせていただいています。
是非、一読下さい。
心より愛をこめて
武 建一

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