「関西生コン支部の運動と弾圧の背景」(No.6)
木下武男(労働社会学者・元昭和女子大学教授)
昨年(2019年)10月14日に行われた「関西地区生コン支部への弾圧を許さない10.14東京集会」での木下武男さん講演を採取して紹介します。(文中、写真、グラフ、図は木下武男さん提供によるものです)
No.5からのつづき…

「関生方式の全産業化・全国化」

最後に関生支部方式の全産業化、全国化による弾圧に対する反撃ですけど、これは労働運動再生の方向性のことで長時間を要する内容ですが、簡単にお話しします。労働運動が衰退しているなかで、ところが実は、労働運動が反転攻勢する新しい基盤ができているのです。
次のグラフは労働市場の図ですが、2000年あたりから構造的に変化している。雇用者の伸びも頭打ちになっていますし、正社員の数が減って、非正規が急増している。右の部分は賃金ですけど、これも1998年あたりから下落し始めています。だいたい1998年から労働統計は反転しだしています。2000年に入ってから日本の労働市場は構造的に変化したと見ることができます。
これはこれまで企業別労働組合の基盤であった民間大企業の終身雇用という雇用のあり方と、自動的に昇給していく年功賃金が、崩壊しつつあるということなのです。ここに新しいユニオン運動の基盤があると捉えるべきだと思います。
それがどのように労働運動に反映するのか。それは労働者類型という媒介を入れて考えるとわかりやすいと思います。労働者類型は3つあります。一つは年功型労働者に対して非年功型上層労働者です。1と2の違いは何かというと自動的に昇進するということです。年齢が上がれば自動的に昇給する。これが①です。これがないわけではありません。公務員やマスコミ関係、組合が強い中小企業でもあります。労働組合の専従もそうかもしれません。それが年功型です。②は自動的には上がらない。成果主義とか厳しい能力主義。そういう制度が2000年代に導入されました。あの大リストラの時期あたりです。40歳くらいまでは賃金は上がっていきますが、その後はダメな人員はリストラされる。このように大企業といえども、今度は昔のような年功的な安定した職場ではありません。しかし企業の中で交渉するかどうかは別として、企業内で労働条件が決定されるとの構造は存在しています。
しかし一方では、下層労働市場が広がっている。これが2000年代以降の特徴です。この下層労働市場では、正社員の非年功型下層労働者+非正規雇用労働者、こういう人たちが今、膨大に広がっています。この下層労働市場における多くは未組織労働者の人々を、業種別・職種別に結集していく、これが労働運動再生の戦略です。
ここで見ておかなければならないのは、ここでの労働条件は、個別企業の経営の善し悪しというよりも業界の構造に規定されているところが大きいことです。下請け構造や過当競争の体制、国の社会保障政策の貧困や規制緩和の政策などです。だから労働者の労働条件も、どこの企業へ行っても同じようなもの、劣悪で過酷なのです。ここに企業を超えて業種別に闘うエネルギーが潜在的には蓄積されていると見るべきでしょう。

「『関生運動』がもつ労働運動再生へのインパクト」

下層労働市場の非年功型労働者を基盤として業種別・職種別に労働組合に結集する、これが武委員長が関生方式を全国化したいと言われることを捉え返し、実践化することだと思います。下層労働市場の労働者にとってはこの呼びかけは通じるものと思います。
ところで「本当の労働組合」と言ってきましたが、現在は産業別労働組合と一般労働組合です。一般労働組合はジェネラル・ユニオンと言いまして、複合産別労働組合と考えてもいいでしょう。一般労働組合はイギリスの場合には、昔の建設一般と都市一般とが統一して最大の労働組合になりました。
この一般労働組合で極めて重要なのは、トレードグループという業種別部会の存在です。これまで述べてきました日本で業種別ユニオンを一つ一つ創っていくこと、このことは実は未来の一般労働組合の業種別部会を結成していることと同じことなのです。つまり業種別職種別ユニオンを合同すれば、大きな一般労働組合(ジェネラル・ユニオン)ができてしまうのです。
昨年の武委員長の講演の時に質問をした若者がいました。彼は自動販売機の詰め替え作業を行うベンダー業界の労働者で、昨年は東京駅で遵法闘争も行いました。そして今年の2月、複数の企業からなるベンダー産業別ユニオンを結成しました。このような下層労働市場の労働者を中心にして業種別職種別ユニオンがつくられる可能性は開けています。
つまりこれは関生支部方式の全国化であり、業種別ユニオンをつくることが可能なことを示しています。将来の全国的なジェネラル・ユニオンを、今、下から創っているのです。私は日本の労働運動はドイツ型のように整然とした産業別の労働組合ではなくて、業種別の労働組合を集めていくジェネラル・ユニオン方式が適合的だと考えています。そういう労働運動を再生していく大きな展望のもとで、関生方式の全国化があるのではないかと思います。

「全世界の戦闘的なユニオニズムの伝統」

最後に、この写真を見て下さい。「戦闘的ユニオニズムの伝統」というところを説明して終わりたいと思います。これは1912年です。IWWという私が好きなアメリカの世界産業労働者労働組合です。右にいるのはローレンスというところの繊維工場の争議、そこでは少年・少女が過酷な労働を強いられていましたが、それを支援するために集まった労働者たちです。左は州兵です。IWWの労働者は暴力的だとマスコミで言われていたんですが、この図は、腕組みをして一歩も引かない闘いを示しています。これは暴力を使わない「腕組みをしたままのストライキ」として有名です。またこの争議で「ブレッド&ローゼス」との標語も生まれました。パンと薔薇つまり誇りです。IWWは、当時の保守的な職業別労働組合いに対して、産業別労働組合主義者の組合でした。職業別組合を突破して、産業別組合を創造する、その活動家の集団です。
このローレンスの闘いは、アメリカ労働運動の闘う伝統として今も引き継がれています。たとえば今おこなわれているアメリカ大統領選挙での民主党の候補者の話です。大統領候補の女性、テレビでの一瞬のことでしたので、確かな記憶ではありませんが、ローレンスの闘いの工場の前で演説していたのです。びっくりしました。このようにアメリカでも戦闘的ユニオニズムは、激しい闘争と激しい弾圧のなかで生き続け、その伝統は今も息づいているのです。関生支部の闘いも全世界の戦闘的ユニオニズムの伝統を受け継いでいます。それがために不滅です。いや、1950年代の弾圧のように崩壊させてはならないのです。われわれは支援し、そして絶対にはね返す。そして武委員長が言うように関生の経験を全国化し、労働運動そのものを反転攻勢に転じていく。皆さまのご健闘を期待して、今日の話しを終わりにいたします。

…おわり
※木下武男(きのした たけお)さん。1944年生まれ。労働社会学者。法政大学で非常勤講師14年間、労働組合論の講義。元昭和女子大学教授。著書に『日本人の賃金』(平凡社新書)、『格差社会に挑むユニオン』(花伝社)など。
最新著書(2021年3月19日刊行)『労働組合とは何か』(岩波新書・900円)

※「序局」第23号(2020.01)に掲載された記事を、発行責任者・編集責任者の許可を得て掲載しています。

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「関生事件」が揺るがす労働基本権
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挑戦を受ける労働基本権保障――一審判決(大阪・京都)にみる産業別労働運動の無知・無理解 (検証・関西生コン事件1)(日本語) 単行本 – 2021/4/20

業者団体と警察・検察が一体となった組合弾圧=「関西生コン事件」がはじまって4年。
労働法研究者、自治体議員、弁護士の抗議声明が出され、労働委員会があいついで組合勝利の救済命令を下す一方、裁判所は産業別労働組合への無知・無理解から不当判決を出している。
あらためて「関西生コン事件」の本質、不当判決の問題点を明らかにする!
連帯ユニオン(著)、小谷野 毅(著)、熊沢 誠(著)、& 2 その他
発行・旬報社、定価800円+税

「関西生コン事件」がはじまってから4年目となります。
関生支部(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部)を標的として、大阪広域生コンクリート協同組合(大阪広域協組)が日々雇用組合員の就労拒否(400人以上)、正社員組合員の解雇、業界あげての団交拒否を開始したのが2018年1月。このあからさまな不当労働行為の尻馬に乗って、滋賀県警が半年後の2017年7~8月にかけて組合員と生コン業者ら10人を恐喝未遂容疑で逮捕しました。その後、大阪、京都、和歌山の三府県警が、2019年11月にかけて、じつに11の刑事事件を仕立てあげ、のべ89人もの組合員と事業者を逮捕。数え上げるとじつに計18回も逮捕劇がくりかえされ、のべ71人が起訴される事態に発展しました。いずれも、ストライキやビラまき、建設現場の法令違反を調査、申告するなどして公正な取引環境を実現するためのコンプライアンス活動、破産・倒産に対して雇用確保を求める工場占拠闘争など、あたりまえの労働組合活動が、恐喝未遂、恐喝、強要未遂、威力業務妨害といった刑事事件とされたものです。
業者団体と警察・検察が表裏一体となった組合弾圧、それが「関西生コン事件」です。
これに対し、歴代の労働法学会代表理事経験者を多数ふくむ78人の労働法学者が2019年12月、憲法28条の労働基本権保障や労働組合法の刑事免責を蹂躙する警察・検察、そしてそれを追認する裁判所を批判して「組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない」とする声明を公表しました。全国各地の120人超の自治体議員の抗議声明、弁護士130人の抗議声明なども出されます。また、自治労、日教組などの労働組合や市民団体がつくる平和フォーラムが母体となって「関西生コンを支援する会」が結成されたのをはじめ、各地で支援組織が2019~20年にかけてあいつぎ結成されます。「関西生コン事件」は関生支部だけの問題ではない、労働組合の権利そのものを脅かす事態だという認識が広がっています。
さらに、冒頭に述べた一連の解雇、就労拒否、団交拒否に対抗すべく関生支部が申し立てた20件近い不当労働行為事件において、大阪府労働委員会が2019年秋以降、あいつぎ組合勝利の救済命令を下しています。その数は命令・決定12件のうち10件(2021年4月現在。大半が中央労働委員会に再審査事件として係属)。団結権侵害を主導した大阪広域協組の責任が明確になってきました。
一方、11件の刑事事件はその後、各事件の分離、併合の結果、大阪、京都、和歌山、大津の四地裁において8つの裁判に整理され、審理がすすめられ、現在までに、大阪ストライキ二次事件(2020年10月)、加茂生コン第一事件(同年12月)、大阪ストライキ一次事件(2021年3月)の3つの一審判決が出されています。
これら判決は、労働委員会事件で出された勝利命令とは対照的に、いずれも労働組合運動に対する浅薄な理解と認識をもとに、大阪広域協組の約束違反や企業の不当労働行為を免罪する一方で、産業別労働組合としての関生支部の正当な活動を敵視するものとなっています。
そこで、この機会に、あらためて「関西生コン事件」とはなにか、また、これら不当判決の問題点はなにかを、労働組合運動にたずさわる活動家のみなさまをはじめ、弁護士、研究者、ジャーナリストのみなさまに一緒に考えていただくために、裁判や労働委員会に提出された研究者の鑑定意見書などを収録した『検証・「関西生コン事件」』を随時発刊することにしました。
控訴審において無罪判決を勝ち取るために努力するのはもちろんのことですが、不当判決を反面教師として、先達が築いてきた労働運動の諸権利を学び直し、新たな運動を創造していくことが私たちに求められていると考えます。本書がその手がかりとして活用されることを願ってやみません。
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なぜ、いま戦後最大規模の刑事弾圧が労働組合に加えられているのか!?
641日勾留された武委員長が語る

「関西生コン事件」で逮捕された武建一委員長は今年5月29日、641日ぶりに保釈された。その1ヵ月後に収録されたロングインタビューをまとめた本が昨年12月10日発刊された。
・一連の事件は、なぜ起きたのか?
・関生支部とはどのような労働組合なのか?
・武建一という人物はいったい何者なのか?
そんな疑問に事実をもって答える1冊。ぜひ、お読みください。『武建一が語る 大資本はなぜ私たちを恐れるのか
発行・旬報社、四六判218ページ、定価1500円+税
*全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)にお申し込みいただければ頒価1500円(送料込み)でお届けします。多部数の場合はお問い合わせください。
お問い合わせ03-5820-0868
【目 次】
第1章 刑事弾圧
641日にもおよんだ勾留生活/なぜ私は逮捕されたのか/協同組合の変質/労組破壊に参加したレイシスト
第2章 「タコ部屋」の過酷労働
私の生い立ち/「練り屋」と呼ばれて/労働運動に目覚める/関生支部の誕生/初めての解雇
第3章 闘いの軌跡
万博不況とオイルショック/ヤクザと生コン/経済界が恐れる産業別労働運動
第4章 大同団結
安値乱売で「がけっぷち」/大阪広域協組の誕生/シャブコン/2005年の弾圧事件/ゼネスト決行/目指すべき場所
解題・安田浩一(ジャーナリスト)
皆様には御元気で御活躍のことと存じます。
この間、全国の多くの皆様より私たち関生支部に対する国家権力と大阪広域生コンクリート協同組合、差別排外主義者集団が一体となった攻撃をはね返す闘いに、多大な御支援をいただきまして誠にありがとうございます。
このたび、著書『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を昨年12月10日に発行する運びとなりました。
今日まで、私は、会社の雇ったヤクザに5回以上殺されかけたり、刑事事件をでっち上げられ前科5犯にさせられています。
1980年代には日経連の大槻文平会長(当時)から「関生型運動は資本主義の根幹に触れる」と言われ、国家権力とマスコミからは「生コンのドン」「金を企業からむしり取る」などとして「反社会的勢力」とレッテルを貼られています。
それはなぜか。歴史と今日を振り返り、事実を元に書かせていただいています。
是非、一読下さい。
心より愛をこめて
武 建一

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