逆転・全員・完全無罪(和歌山事件)~産業別労働組合の意義を認めた〝尋常じゃない尋常な判決〟-弁護士中島光孝

大阪高等裁判所第1刑事部(裁判長和田真裁判官、松田道別裁判官、肥田薫裁判官)は、2023年3月6日、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部の武谷新吾書記次長ら3名に対する威力業務妨害、強要未遂被告事件について、和歌山地裁刑事部(裁判長松井修裁判官、小坂茂之裁判官、石橋直幸裁判官)が言い渡した原判決(有罪判決)を破棄し、3名全員に無罪判決を言い渡しました。

「原判決を破棄する。被告人らはいずれも無罪」

裁判長が「原判決を破棄する」「被告人らはいずれも無罪」と告げた瞬間、満席の傍聴席では大きなどよめきが起こり、拍手が起こりました。私の前に座っていた武谷さんは振り向き、無罪であることを確認する目線を送ってきました。

判決の朗読が進むにつれ、日本では労働組合・労働運動が国家権力やその手先となった暴力組織によって弾圧された歴史があり、憲法28条はそうした権力・暴力との関係で保障されているのであるから、本件はそのような構造のなかで把握しなければ真相は見えてこないし、憲法28条を正しく適用することはできないという裁判官の確固たる意思が明確に浮かび上がってきました。

「尋常じゃない判決、尋常な判決」

3月2日の大津地裁での湯川委員長に対する実刑判決のあとで、労働組合活動の正当性を認めたこの判決は、ある人の表現を借りれば「尋常じゃない判決」ともいえます。しかし、証拠を正当に評価し、正当な事実認定をし、憲法28条を正当に適用した点に着目すれば「尋常な判決」であるともいえます。では、どこが「尋常じゃない判決」か、どこが「尋常な判決」なのか。

「尋常ではない」第一の点は、本判決が、関生支部と和歌山県広域協(M理事長)との関係性を歴史的、構造的に把握し、そのうえで武谷さんら3人の個々の言動の意味を解釈していることです。例えば、本判決は、「確かに、被告人らの口調が、K元組合員を中心に、大声であったり、舌を巻いた粗暴な口調で.怒号したりする発言があったことは原判決の説示するとおり」であるとしています。しかし、「一番激しい広域協事務所に入る前の被告人らの言動 (発言❶ないし❺等)は、 短時間のことである上、M理事長に対してではなく、T(元暴力団)に対するものであることは既に述べたとおりで、M理事長に謝罪を求めているものでもない。以前にTが被告人武谷を脅した経緯があることも踏まえると、やむを得ない面がないとはいえず、その後、被告人武谷とM理事長が話すことになってその場が落ち着き、M理事長も了解して被告人武谷らを事務所に招き入れていることから、この場面の言動を殊更重視することはできない」としています。この部分などは、和歌山県における関生支部とM理事長との過去のいきさつを歴史的に、また、和歌山県における生コン協同組合と関生支部などの関係を構造的に把握したうえでなければ出てこない判断部分といえます。本判決はこのような事実認定のもとに、威力業務妨害及び強要未遂の構成要件該当性を否定しました。

「産別労組の関生支部は、業界企業の経営者・使用者あるいはその団体と労働関係上の当事者に当たるから、正当な組合活動」

「尋常ではない」第二の点は、産業別労働組合の組織構造や活動の特徴を理解したうえでの判断がなされていることです。地裁判決は、憲法28条の団結権等の保障は、労働関係の当事者に当たることが前提で、労組法1条2項の刑事免責も、同様の前提を必要とするところ、被告人らとM理事長との間には、このような関係が存在しないため、憲法28条の保障も制約されるとの考えによるものでした。しかし、本判決は、地裁判決は、労働組合の団結権保障の趣旨や、関生支部が産業別労働組合であることを正解しない不合理な認定判断である、と強く批判しました。

そして、産業別労働組合である関生支部は、業界企業の経営者・使用者あるいはその団体と労働関係上の当事者に当たるとし、武谷さんらの行動は、正当な目的のもとに行った正当な労働組合活動だと判断しました。

「憲法や労組法を正当に解釈し、地裁判決を完膚なきまでに批判した」

ではなぜ「尋常な」判決であるといえるのでしょうか。それは、憲法28条の制定経過や労働運動の弾圧の歴史について正当な理解のもとに、憲法や労組法を正当に解釈し、地裁判決を完膚なきまでに批判したことです。

本判決は、集団的労使関係に関する重要な判断を示しました。今後、この判断が定着することを願い、「無罪」という言葉の重みをかみしめつつ、筆をおくことといたします。

※ 検察側は最高裁への上告を断念したことから、3月20日付けで高裁判決が確定しました。

映画 ここから 「関西生コン事件」と私たち

この映画は「フツーの仕事がしたい」「アリ地獄天国」など労働問題を取り上げ注目を浴びている土屋トカチ監督の最新作。「関西生コン事件」の渦中にある組合員たちの姿を描いた待望のドキュメンタリー映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』がこのほど完成。10月下旬から各地で上映運動がはじまった。10 月 23日には「関西生コン労組つぶしの弾圧を許さな い東海の会」が名古屋で、11月6日には「労働組合つぶしの大弾圧を許さない京滋実行委員会」京都で上映会。業界・警察・検察が一体となった空前の労働組合つぶしに直面した組合員と家族の物語を見つめた。(写真右は京都上映会 で挨拶する松尾聖子さん) 今後、11月13 日には護憲大会(愛媛県松山市)、同月25日は「労働組合つぶしを許さない兵庫の会」が第3回総会で、12月16日は「関西生コンを支援する会」が東京で、それぞれ上映会をひらく。

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ー 公判予定 ー

4月19日  コンプライアンス二次事件 大津地裁 10:00~
5月11日     京都3事件                    京都地裁 10:00~

関西生コン事件ニュース No.88  ココをクリック3月29日発行 関連動画 「関西生コン事件」報告集会 ココをクリック 
関西生コン事件ニュース No.87  ココをクリック 
関西生コン事件ニュース No.86  ココをクリック   

2021年12月9日「大阪市・契約管材局と労働組合の協議」
回答が大阪市のホームページに掲載 
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賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国 竹信三恵子(著)– 2021/11/1 旬報社 1,650円(税込み) 1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけ。 そんななか、連帯ユニオン関西地区生コン支部は、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も実現した。 業界の組合つぶし、そこへヘイト集団も加わり、そして警察が弾圧に乗り出した。 なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合つぶしが行なわれているのか。 迫真のルポでその真実を明らかにする。

目次 :
プロローグ
第1章 「賃金が上がらない国」の底で
第2章 労働運動が「犯罪」になった日
第3章 ヘイトの次に警察が来た
第4章 労働分野の解釈改憲
第5章 経営側は何を恐れたのか
第6章 影の主役としてのメディア
第7章 労働者が国を訴えた日
エピローグ

【著者紹介】 竹信三恵子 : ジャーナリスト・和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社、経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)、2011-2019年和光大学現代人間学部教授。著書に『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書、日本労働ペンクラブ賞)など。貧困や雇用劣化、非正規労働者問題についての先駆的な報道活動に対し、2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

第 10 回「日隅一雄・情報流通促進賞」の特別賞を受賞 詳しくはコチラ

(「BOOK」データベースより)

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