個人の犯罪ではなく、検察組織の犯罪-大阪高裁決定
大阪地検特捜部に業務上横領の疑いで逮捕・起訴され、無罪となった不動産会社元社長が、捜査に関わった検事について特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判を開くよう求めた付審判請求で、大阪高裁(村越一浩裁判長)は訴えを退けた大阪地裁の決定を取り消し、8月8日、田渕大輔検事(現東京高検)を審判に付す決定を出しました。
「明らかに違法」
大阪高裁は、一連の取り調べに陵虐行為の疑いがあるとし、「検察官に迎合する虚偽供述を誘発しかねず、明らかに違法」と批判し、「このような取り調べは今後、繰り返さないようにすべきだ」と、検察官による取り調べを罪に問うべきだと判断しました。
大阪高裁の決定は検察組織の問題にも言及しており、裁判を開くように求めていた不動産会社元社長の弁護団は「刑事司法の歴史に残る決定だ」と評価しました。検察官が審判に付されるのは初めてで、今後、刑事裁判が開かれます。
「組織として真剣に検討するべきだ」
「プレサンスコーポレーション」元社長の山岸忍さんは学校法人から土地売却に絡み21億円が横領された事件の共犯とされ、一審で無罪が確定しました。元部下を取り調べ、山岸さんの起訴の根拠となった供述を取った田渕検事を審判に付すよう求めていました。
昨年3月の地裁決定は、2019年12月8日の取り調べを陵虐行為と認定しましたが、継続的ではないとして付審判の判断はしなかったのです。
これに対し大阪高裁の決定は、翌9日も含めた取り調べで、山岸さんの関与を否定する元部下に対して「検察なめんな」などと一方的に怒鳴り、机を叩いて責め立てたと指摘。一連の取り調べを「虚偽供述が誘発されかねない危険性の高いもの」と結論づけました。
その上で、今回の取り調べが大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を受けて導入された録音・録画下で行われた点を問題視し、「検事個人の資質や能力が原因と捉えるべきではなく、検察の捜査・取り調べのあり方を『組織として真剣に検討するべきだ』」と求めました。
「検察官は人の人生を狂わせる権力を持っている」
大阪高裁の決定によると、大阪地検特捜部に所属していた田渕大輔検事は取り調べで「ウソをついても謝りもしない非常識な人間」「検察官は人の人生を狂わせる権力を持っている」などと発言したと。そして、約50分間にわたって机を叩いたり、大声で詰問したりしたと。
「深刻な問題と受けとめられていないこと自体が問題の根深さを物語っている」
大阪高裁の決定は、こうした取り調べは「検察官に迎合する虚偽供述を誘発する危険性が高い」と指摘しました。取り調べは録音・録画され、他の検察官も映像を見たはずなのに、検察庁内部で適切な対応が取られた形跡はうかがえず「深刻な問題と受けとめられていないこと自体が問題の根深さを物語っている」としました。
検察の不起訴処分を受け入れることは、田渕検事の取り調べを「結果的に許容すること」につながるとも述べました。
「個人の資質や能力の問題にとどまらず、検察組織の問題と受けとめるべき」
その上で、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を受けて設置された「検察の在り方検討会議」などでの議論を受け、2019年から一部の事件で義務化された録音・録画下で行われた取り調べだったことにも言及し、「個人の資質や能力の問題にとどまらず、検察組織の問題と受けとめ、捜査や取り調べのあり方を改めていま議論すべきだ」と促しました。
「問題点が刑事裁判で明らかにされることを望む」
付審判は、公務員に職権濫用があったとする告訴や告発をしても、検察官が不起訴とした場合、裁判所に罪を問うよう直接求める制度で、1949年から2022年に付審判決定が出たのは22件で、そのうち9件で有罪判決が確定しています。
これまでは、ほぼ警察官が対象で、特捜検事が取り調べをめぐって罪に問われるのは初めてのことだそうです。
大阪高裁の決定を受けた記者会見で、弁護団の中村和洋弁護士は「個人の犯罪ではなく、組織の犯罪と決定は言っている。まさにその通りだ。問題点が刑事裁判で明らかにされることを望む」と強く述べました。
「捜査機関は、重く受けとめるべき」
取り調べの問題に詳しい葛野尋之・青山学院教授(刑事法)は、朝日新聞の取材に次のように述べています(24.8.9朝日朝刊)。
今回の決定は、検察官個人の問題にとどまらず、取り調べを中心に据えてきた捜査の在り方そのものを改革すべき、という強いメッセージだ。長期間にわたって拘束し、連日取り調べをする「目に見えない心理的圧迫」を丁寧に検討し、「取り調べは真実追及の場面で、厳しく被疑者に迫るのは当然との考えが検察官に残り、意識の低さにつながった」とも指摘した。捜査機関は、重く受けとめるべきだ。
「相次ぐ国賠訴訟」
プレサンスコーポレーション元社長の山岸さんは、付審判請求とは別に、国に損害賠償請求を提訴し、大阪地裁で審理が続いています。
横浜地検特別刑事部に逮捕・起訴され、有罪が確定した元弁護士が起こした損害賠償請求訴訟では、東京地裁が7月、黙秘を非難するような発言や、「ガキ」などの侮辱的な表現を含む検察官の取り調べを「違法」と認定し、国に110万円の賠償を命じました。
東京地検特捜部に詐欺罪などで逮捕・起訴された太陽光発電関連会社の社長も、違法な取り調べを受けたとして提訴しているなど、検察官の取り調べをめぐっては、国賠訴訟が相次いでいます。
「検察組織は信用に値するものなのか?」
この間、検察は、取調中の検察官による暴言や恫喝めいた発言、取り調べで被疑者が供述していない調書の作成(検察側のストーリーに基づく)、証拠の改ざん、事件に関係のない被疑者の家族や友人、知人、会社関係者らへの接触や連絡など、違法性が問われるやり方が露呈しています。
現在、多くの冤罪が取り沙汰されているなか、検察組織は信用に値するものなのでしょうか?国民の厳しい監視の目が求められています。
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