「東京の会結成によせて」ビデオ講演(抜粋)「前編」

熊沢誠さん(労働運動研究者)

関生支部への建設資本と警察権力が一体となっての弾圧は、戦後労使関係史上のなかでも未曾有の組合つぶしです。事態は、労働運動が禁止されていた戦前の日本、あるいは、労働組合活動の承認をめぐる闘いが展開されていた1870年代のイギリスを想起させるような様相を呈しています。
まずこの弾圧が、労働運動承認の原則を踏み外した時代遅れの抑圧かということです。1870年からおよそ1906年にいたるイギリスで、労働組合運動を容認させる闘いの歴史がありました。労働組合活動が承認されるということは、争議行為に刑法上および民法上の免責があるということです。
刑法上の免責とは何か。「一人によってなされた行為が非合法でなければ、その行為が労働組合よって集団でおこなわれたからといって、それを非合法にすることはできない」ということです。今回の逮捕や起訴が刑法上の免責を踏みにじる行為であることがすぐわかるでしょう。

「労働運動の黄金律」をめぐって

もうひとつ、民事免責とは何か。労働組合の争議行為は不可避的に、少なくとも一定程度は企業の営業に打撃を与えます。イギリスの労働運動は、「ストライキが会社に営業上の損害を与えることについて損害賠償請求はできない」ことを認めさせました。これが民法上の免責です。この刑事上・民事上の免責は日本の労働組合法にも明記されています。これらは労働組合承認の「黄金律」と言えます。
なぜいま、関生支部に対して、この「黄金律」を蹂躙する弾圧がおこなわれているのか。それは日本全体として労働組合運動が著しく衰退している中で、まっとうな有力な労働組合だからです。
関生支部は、独占的な受注先のセメント会社と独占的な受注先の建設ゼネコンの中間に群生する中小企業、生コン会社の労働者を個人加盟のかたちで、企業横断的に組織する、欧米型の産業別組合です。企業別組合の連合体としての「単産」ではないのです。
それゆえ、交渉権、争議権、妥結権は企業ごとの分会ではなく、支部=単組に集約されています。賃金も、1980年はじめ頃から、セメント・ローリー運転手、生コン工場の製造工、「圧送」の運転手と機械工など数種の職種別に交渉・決定されています。
さらに、ストライキのできる労働組合です。一般に中小企業が集中する産業分野で労働組合がストライキをするのはむつかしい。それができるのは、関生支部が企業横断の単組という組織であり、労使関係にストライキはあり得るというまっとうな認識をもって、ストライキ参加の労働者の生活費を保障できるような闘争積立資金を用意している。さらにこの組合が労使交渉の枠組みの構築にすぐれた創意性を発揮してきたからです。

「ストライキで大企業と闘う」

生コン中小企業の商売上の取引先は、上流がセメント会社、下流が建設ゼネコンという、いずれも価格交渉力の強い大手企業です。ここでの企業間の価格競争が放置されれば、生コン企業の収益は危うく、この業界で働く労働者の労働条件へのしわ寄せを招く。そこで中小企業との一種の共闘を形成し、その上で組合は、その協同事業体との間で集団・統一交渉を展開して標準的な労働条件を獲得するとともに、組合の推薦する労働者を優先雇用させるという協定を結んだのです。
もちろんその場合、協同事業体に属さず、抜け駆けで相場を割る低価格取引と労働条件の切り下げで対応しようとする「アウト企業」は一定かならず現れます。そこで組合の力量が問われる。関生支部は、実際「アウト企業」に対して、ピケを含むストライキやボイコットをもって報います。その実践によって、組合組織率は30%に留まるのに、この集団交渉の結果は、この業界の労働条件の規範となりえたのです。
またこの組合は、生コン企業に雇用されている正規従業員ばかりでなく、その企業に携わる非正規雇用や日雇い労働者も包含しています。日本ではまれに見る組織形態です。そして関生支部は、賃金・労働条件という組合の本来の要求に留まらない。生コン価格や運送価格の維持も副次的な要求もこめたストライキをします。
こうした営みに対して今、関生支部と支部と共闘する協同組合・業者団体に組織的な弾圧が襲いかかったのです。建設大資本は、中小企業をサバイバル競争に駆って生コン価格・運送価格を買い叩き、大きく儲けようとしています。弾圧の現場では警察権力が動き、排外主義グループも跳梁していますが、背後ではゼネコン・大企業が有形無形の支援をしているのは明らかです。
セメント・ゼネコン企業に従属する「大阪広域生コンクリート協同組合」(以下、大阪広域協組)が前面に立ち、関生支部の一掃を目論んでいます。大阪広域協組は、関生支部と関係を保って企業経営を安定させ、働く人々の労働条件の維持・向上を図ろうとする生コン業社の営業の邪魔をしています。そこでやむなく不当労働行為に奔る業者もあらわれたのです。

…後編へつづく
熊澤誠(くまざわまこと)氏
1938年三重県生まれ。1961年京都大学経済学部卒業。1969年経済学博士。専攻は労使関係論・社会政策論。甲南大学名誉教授。労働の中での人間復権を追求し、1999年より研究会「職場の人権」を創設。 NPO法人「労働と人権 サポートセンター・大阪」共同代表理事。日本社会政策学会ほか会員。『産業史における労働組合機能―イギリス機械工業の場合』ほか、著書多数。

※「関西生コン労働組合の弾圧を許さない東京の会」発行の「共に闘う」から、許可を得て掲載しています。

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労働組合やめろって警察にいわれたんだけどそれってどうなの(憲法28条があるのに…) 単行本 – 2020/3/6
連帯ユニオン、葛西 映子、北 建一、小谷野 毅、宮里 邦雄、熊沢 誠、海渡 雄一、鎌田 慧、竹信 三恵子(著)

内容紹介
戦後最大の「労組壊滅作戦」が進行。
警察・検察・裁判所による弾圧。
権力と一体となった業界あげての不当労働行為。
関西生コン事件の本質を明らかにする!
ストライキやコンプライアンス活動を「威力業務妨害」「恐喝未遂」として89人逮捕、71人を起訴。
委員長と副委員長の拘留期間は1年5か月超。
取り調べで「組合をやめろ」と迫る警察。
家族に「組合をやめるよう説得しろ」と電話をかける検察。
組合活動の禁止を「保釈許可条件」とする裁判所。
いったい誰が、なんのために仕掛けているのか「?関西生コン事件」の真相。お問い合わせは、連帯ユニオンまで TEL:06(6583)5546 FAX:06(6582)6547
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