「豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」大阪市教育行政への提言

大阪市立小学校の校長が、市の教育行政への「提言書」を松井一郎市長に実名で送りました。今回の緊急事態宣言中、市立小学校の学習を「自宅オンラインが基本」と決めた判断について「学校現場は混乱を極めた」と訴える内容です。全国学力調査や教員評価制度などにも触れ、子どもが過度な競争に晒され教師は疲弊していると訴えました。松井市長は5月20日、報道陣に「子どもの命を守ることを最優先にコロナ対応の手段としてオンラインを活用した」と反論しました(5月21日付朝日新聞)。

「子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出している」

大阪市淀川区の市立木川南小学校の久保敬校長は5月17日、「提言書」を松井市長宛に郵送しました。
提言は、オンライン学習を基本とした松井市長の判断を「子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出している」と批判しており、久保校長自身はSNSに投稿していませんが、内容を聞いた知人が本人の許可を得て投稿し、広がっています。

「オンライン学習は、環境整備不足で、場当たり的」

松井市長が「自宅オンラインが基本」との判断を報道陣に表明したのは、大阪府内で新型コロナの感染者が増えていた4月19日で、これを受けた市教育委員会は市立小では3限または4限から給食までを「登校時間」と決定し、家庭の要望がある場合、それ以外の時間も児童生徒を校内で預かることも決めました(5月17日、松井市長は24日に通常授業を再開すると発表した)。
この判断で学校現場は、オンライン学習への対応や児童ごとに異なる登校時間の把握に追われました。久保校長の提言は「通信環境の整備など十分に練られることがないまま場当たり的な計画で進められ」「保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている」と書かれています。
久保校長の木川南小学校は独自の運用を続けてきましたが、緊急事態宣言が出る2日前の4月23日、「通常通りの時間で集団登校をし、オンライン学習の練習もしながら午前に4時間の学習をし、給食後の午後2時ごろ帰宅」との方針を決めました。市教委の方針では、預かりを希望するか否かで登校時間が異なるため集団登校ができなくなり「交通安全や不審者へのリスクが高まる」と考えたからです。

「教職員はやりがいや使命感を奪われ、働くことへの意欲さえ失いつつある」

運用を始めた4月26日にアンケートしたところ、回答した保護者128人の9割が「いつも通りの集団登校」に「賛成」と答えました。
久保校長の提言は、より広い教育行政の問題にも言及しています。「虐待や不登校、いじめ、10代の自殺増加」にも触れ、「『子どもたちを生き辛くさせているもの』に大人が真剣に向き合うべきだと。全国学力調査などについては、『子どもたちは、テストの点によって選別される』として危惧している。教職員の人事評価制度も批判し、『教職員はやりがいや使命感を奪われ、働くことへの意欲さえ失いつつある』」とも記しています。

「これは民主主義なのかな」

久保校長は、朝日新聞の取材に「(松井)市長が市長として仕事してはることに対しては敬意を持っています」と述べたあと、トップダウンで「オンライン学習が基本」と決めたことについて、「プロセスが『これは民主主義なのかな』って。大げさに言うたらそんな風に思います」と疑問を呈しました。
5月中旬までに3回、大阪市の「市民の声」窓口に実名・肩書きを出してメールで意見を伝えましたが、方針が変わらないため市長らに提言書を送ったといいます。実名で送った理由を「本当に思っていることを黙ったままでいいのかなと。お世話になった先生方や保護者、担任をした子どもを裏切ってしまう感じがした」と語りました。

「松井市長『子どもたちは、競争する社会の中で生き抜いていかなければならない』と反論」

松井市長は久保校長の提言書をSNSで読んだとして5月20日、報道陣の取材に対して自らの考えを語りました。
提言書が「競争社会」を批判した点については「校長だけども、(社会の)現場がわかってないというかね、社会人として外に出てきたことあるんかな」と言い、「今の時代、子どもたちはすごいスピード感で競争する社会の中で生き抜いていかなければならない」として、小中学校時代にそのための力を培うことが大事だと述べました。

「この提言に心から賛同したい」

別の区の60代の市立小学校長は「声をあげにくい中でよく言ってくれた」と支持しました。「これまでも教育現場の声を聞かずに色んなことが決められてきた」などと区内の校長の間でも共感する声が多いとのことです。
阿倍野区の私立小学校の50代男性教諭は「私たちは決まった方針に対して何も言えず、従うしかない。諦めていたが、この提言に心から賛同したい」と話しました。

「共生・共同の社会づくりを目指そう」

現職の校長が実名で市長を批判するのは異例とのことです。市立木川南小学校の久保敬校長の「提言書」はもっともなことが書かれており、学ぶべきことが多くあります。私たち労働組合には、久保校長の「提言」で学んだことを実践することが求められいます。競争社会ではなく、共生・共同の社会づくりを目指して行動しましょう。

※「提言書」の全文

大阪市長松井一郎様

 大阪市教育行政への提言「豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」

子どもたちが豊かな未来を幸せに生きていくために、公教育はどうあるべきか真剣に考える時がきている。
学校は、グローバル経済を支える人材という「商品」を作り出す工場と化している。そこでは、子どもたちは、テストの点によって選別される「競争」に晒される。そして、教職員は、子どもの成長にかかわる教育の本質に根ざした働きができず、喜びのない何のためかわからないような仕事に追われ、疲弊していく。さらには、やりがいや使命感を奪われ、働くことへの意欲さえ失いつつある。
今、価値の転換を図らなければ、教育の世界の未来はないのではないかとの思いが胸をよぎる。持続可能な学校にするために、本当に大切なことだけを行う必要がある。特別な事業は要らない。学校の規模や状況に応じて均等に予算と人を配分すればよい。特別なことをやめれば、評価のための評価や、効果検証のための報告書やアンケートも必要なくなるはずだ。全国学力・学習状況調査もその結果を分析した膨大な資料も要らない。それぞれの子どもたちが自ら「学び」に向かうためにどのような支援をすればいいのかは、毎日、一緒に学習していれば分かる話である。
現在の「運営に関する計画」も、学校協議会も手続き的なことに時間と労力がかかるばかりで、学校教育をよりよくしていくために、大きな効果をもたらすものではない。地域や保護者と共に教育を進めていくもっとよりよい形があるはずだ。目標管理シートによる人事評価制度も、教職員のやる気を喚起し、教育を活性化するものとしては機能していない。
また、コロナ禍により前倒しになったGIGAスクール構想に伴う一人一台端末の配備についても、通信環境の整備等十分に練られることないまま場当たり的な計画で進められており、学校現場では今後の進展に危惧していた。3回目の緊急事態宣言発出に伴って、大阪市長が全小中学校でオンライン授業を行うとしたことを発端に、そのお粗末な状況が露呈したわけだが、その結果、学校現場は混乱を極め、何より保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている。結局、子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかきむしられる思いである。
つまり、本当に子どもの幸せな成長を願って、子どもの人権を尊重し「最善の利益」を考えた社会ではないことが、コロナ禍になってはっきりと可視化されてきたと言えるのではないだろうか。社会の課題のしわ寄せが、どんどん子どもや学校に襲いかかっている。虐待も不登校もいじめも増えるばかりである。10代の自殺も増えており、コロナ禍の現在、中高生の女子の自殺は急増している。これほどまでに、子どもたちを生き辛くさせているものは、何であるのか。私たち大人は、そのことに真剣に向き合わなければならない。グローバル化により激変する予測困難な社会を生き抜く力をつけなければならないと言うが、そんな社会自体が間違っているのではないか。過度な競争を強いて、競争に打ち勝った者だけが「がんばった人間」として評価される。そんな理不尽な社会であっていいのか。誰もが幸せに生きる権利を持っており、社会は自由で公正・公平でなければならないはずだ。
「生き抜く」世の中ではなく、「生き合う」世の中でなくてはならない。そうでなければ、このコロナ禍にも、地球温暖化にも対応することができないにちがいない。世界の人々が連帯して、この地球規模の危機を乗り越えるために必要な力は、学力経年調査の平均点を1点あげることとは無関係である。全市共通目標が、いかに虚しく、わたしたちの教育への情熱を萎えさせるものか、想像していただきたい。
子どもたちと一緒に学んだり、遊んだりする時間を楽しみたい。子どもたちに直接かかわる仕事がしたいのだ。子どもたちに働きかけた結果は、数値による効果検証などではなく、子どもの反応として、直接肌で感じたいのだ。1点・2点を追い求めるのではなく、子どもたちの5年先、10年先を見据えて、今という時間を共に過ごしたいのだ。テストの点数というエビデンスはそれほど正しいものなのか。
あらゆるものを数値化して評価することで、人と人の信頼や信用をズタズタにし、温かなつながりを奪っただけではないのか。
間違いなく、教職員、学校は疲弊しているし、教育の質は低下している。誰もそんなことを望んでいないはずだ。誰もが一生懸命働き、人の役に立って、幸せな人生お送りたいと願っている。その当たり前の願いを育み、自己実現できるよう支援していくのが学校でなければならない。
コロナ禍の今、本当に子どもたちの安心・安全と学びをどのように保障していくかは、難しい問題である。オンライン学習などICT機器を使った学習も教育の手段としては有効なものであるだろう。しかし、それが子どもの「いのち」(人権)に光が当たっていなければ、結局は子どもたちをさらに追い詰め、苦しめることになるのではないだろうか。今回のオンライン授業に関する現場の混乱は、大人の都合による勝手な判断によるものである。
根本的な教育の在り方、いや政治や社会の在り方を見直し、子どもたちの未来に明るい光を見いだしたいと切に願うものである。これは、子どもの問題ではなく、まさしく大人の問題であり、政治権力を持つ立場にある人にはその大きな責任が課せられているのではないだろうか。
令和3(2021)年5月17日 大阪市立木川南小学校 校長 久保敬

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「関生事件」が揺るがす労働基本権
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挑戦を受ける労働基本権保障――一審判決(大阪・京都)にみる産業別労働運動の無知・無理解 (検証・関西生コン事件1)(日本語) 単行本 – 2021/4/20

業者団体と警察・検察が一体となった組合弾圧=「関西生コン事件」がはじまって4年。
労働法研究者、自治体議員、弁護士の抗議声明が出され、労働委員会があいついで組合勝利の救済命令を下す一方、裁判所は産業別労働組合への無知・無理解から不当判決を出している。
あらためて「関西生コン事件」の本質、不当判決の問題点を明らかにする!
連帯ユニオン(著)、小谷野 毅(著)、熊沢 誠(著)、& 2 その他
発行・旬報社、定価800円+税

「関西生コン事件」がはじまってから4年目となります。
関生支部(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部)を標的として、大阪広域生コンクリート協同組合(大阪広域協組)が日々雇用組合員の就労拒否(400人以上)、正社員組合員の解雇、業界あげての団交拒否を開始したのが2018年1月。このあからさまな不当労働行為の尻馬に乗って、滋賀県警が半年後の2017年7~8月にかけて組合員と生コン業者ら10人を恐喝未遂容疑で逮捕しました。その後、大阪、京都、和歌山の三府県警が、2019年11月にかけて、じつに11の刑事事件を仕立てあげ、のべ89人もの組合員と事業者を逮捕。数え上げるとじつに計18回も逮捕劇がくりかえされ、のべ71人が起訴される事態に発展しました。いずれも、ストライキやビラまき、建設現場の法令違反を調査、申告するなどして公正な取引環境を実現するためのコンプライアンス活動、破産・倒産に対して雇用確保を求める工場占拠闘争など、あたりまえの労働組合活動が、恐喝未遂、恐喝、強要未遂、威力業務妨害といった刑事事件とされたものです。
業者団体と警察・検察が表裏一体となった組合弾圧、それが「関西生コン事件」です。
これに対し、歴代の労働法学会代表理事経験者を多数ふくむ78人の労働法学者が2019年12月、憲法28条の労働基本権保障や労働組合法の刑事免責を蹂躙する警察・検察、そしてそれを追認する裁判所を批判して「組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない」とする声明を公表しました。全国各地の120人超の自治体議員の抗議声明、弁護士130人の抗議声明なども出されます。また、自治労、日教組などの労働組合や市民団体がつくる平和フォーラムが母体となって「関西生コンを支援する会」が結成されたのをはじめ、各地で支援組織が2019~20年にかけてあいつぎ結成されます。「関西生コン事件」は関生支部だけの問題ではない、労働組合の権利そのものを脅かす事態だという認識が広がっています。
さらに、冒頭に述べた一連の解雇、就労拒否、団交拒否に対抗すべく関生支部が申し立てた20件近い不当労働行為事件において、大阪府労働委員会が2019年秋以降、あいつぎ組合勝利の救済命令を下しています。その数は命令・決定12件のうち10件(2021年4月現在。大半が中央労働委員会に再審査事件として係属)。団結権侵害を主導した大阪広域協組の責任が明確になってきました。
一方、11件の刑事事件はその後、各事件の分離、併合の結果、大阪、京都、和歌山、大津の四地裁において8つの裁判に整理され、審理がすすめられ、現在までに、大阪ストライキ二次事件(2020年10月)、加茂生コン第一事件(同年12月)、大阪ストライキ一次事件(2021年3月)の3つの一審判決が出されています。
これら判決は、労働委員会事件で出された勝利命令とは対照的に、いずれも労働組合運動に対する浅薄な理解と認識をもとに、大阪広域協組の約束違反や企業の不当労働行為を免罪する一方で、産業別労働組合としての関生支部の正当な活動を敵視するものとなっています。
そこで、この機会に、あらためて「関西生コン事件」とはなにか、また、これら不当判決の問題点はなにかを、労働組合運動にたずさわる活動家のみなさまをはじめ、弁護士、研究者、ジャーナリストのみなさまに一緒に考えていただくために、裁判や労働委員会に提出された研究者の鑑定意見書などを収録した『検証・「関西生コン事件」』を随時発刊することにしました。
控訴審において無罪判決を勝ち取るために努力するのはもちろんのことですが、不当判決を反面教師として、先達が築いてきた労働運動の諸権利を学び直し、新たな運動を創造していくことが私たちに求められていると考えます。本書がその手がかりとして活用されることを願ってやみません。
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なぜ、いま戦後最大規模の刑事弾圧が労働組合に加えられているのか!?
641日勾留された武委員長が語る

「関西生コン事件」で逮捕された武建一委員長は今年5月29日、641日ぶりに保釈された。その1ヵ月後に収録されたロングインタビューをまとめた本が昨年12月10日発刊された。
・一連の事件は、なぜ起きたのか?
・関生支部とはどのような労働組合なのか?
・武建一という人物はいったい何者なのか?
そんな疑問に事実をもって答える1冊。ぜひ、お読みください。『武建一が語る 大資本はなぜ私たちを恐れるのか
発行・旬報社、四六判218ページ、定価1500円+税
*全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)にお申し込みいただければ頒価1500円(送料込み)でお届けします。多部数の場合はお問い合わせください。
お問い合わせ03-5820-0868
【目 次】
第1章 刑事弾圧
641日にもおよんだ勾留生活/なぜ私は逮捕されたのか/協同組合の変質/労組破壊に参加したレイシスト
第2章 「タコ部屋」の過酷労働
私の生い立ち/「練り屋」と呼ばれて/労働運動に目覚める/関生支部の誕生/初めての解雇
第3章 闘いの軌跡
万博不況とオイルショック/ヤクザと生コン/経済界が恐れる産業別労働運動
第4章 大同団結
安値乱売で「がけっぷち」/大阪広域協組の誕生/シャブコン/2005年の弾圧事件/ゼネスト決行/目指すべき場所
解題・安田浩一(ジャーナリスト)
皆様には御元気で御活躍のことと存じます。
この間、全国の多くの皆様より私たち関生支部に対する国家権力と大阪広域生コンクリート協同組合、差別排外主義者集団が一体となった攻撃をはね返す闘いに、多大な御支援をいただきまして誠にありがとうございます。
このたび、著書『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を昨年12月10日に発行する運びとなりました。
今日まで、私は、会社の雇ったヤクザに5回以上殺されかけたり、刑事事件をでっち上げられ前科5犯にさせられています。
1980年代には日経連の大槻文平会長(当時)から「関生型運動は資本主義の根幹に触れる」と言われ、国家権力とマスコミからは「生コンのドン」「金を企業からむしり取る」などとして「反社会的勢力」とレッテルを貼られています。
それはなぜか。歴史と今日を振り返り、事実を元に書かせていただいています。
是非、一読下さい。
心より愛をこめて
武 建一

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