最前線で命の危険を冒して働く労働者を守るための行動を

アメリカでは新型コロナの感染拡大が深刻になった3月、州知事らが「企業は在宅勤務に切り替えるよう」に命じました。しかし、スーパーは「必要不可欠な業種」として通常営業を続けたことにより、首都ワシントン郊外のスーパーで2014年から、最低賃金に近い10ドル(約1070円)ほどで働いていた27歳の女性が、3月下旬に39度を超す熱を出し、新型コロナウィルスの感染が確認され、わずか5日後に亡くなりました。東部マサチューセッツ州のスーパー「ウォルマート」では4月以降、従業員34人が感染したなかで、中国系移民の女性が5月3日に亡くなるなど、スーパー従業員の感染が相次いだのです。

「危険と向き合い続けている現場の労働者」

アメリカでは6月から感染が再び急加速し、現在も増え続けています。7月18日までに感染者は364万人を超え、死者は14万人近く(ジョンズ・ポプキンス大のまとめ)で世界ワーストワンです。
全米にはスーパーなどの食料品店が約4万店あり、300万人を超える労働者を雇用しており、全米食品商業労組は6月25日、約130万人の組合員のうち約2万9千人が感染し、238人が死亡したと発表しました。マーク・ペローン委員長は危険手当の支払いやマスク着用の義務づけを求め、「労働者は、パンデミックが始まったときと同じような危険と向き合い続けている」と訴えています。

「現場の労働者によって生み出された巨大IT企業の資産増」

他方では、コロナ禍の中でも在宅勤務で感染リスクが低く、高給を得ている労働者がいます。フェイスブックやツイッターなど、アメリカの巨大IT企業では入社したばかりの若手エンジニアでも、年収が15万ドル(約1600万円)ほどあると言われており、新型コロナの感染が広がっても高い給与を維持し、ワーク・ライフ・バランスも享受できています。
企業の株価も上昇し、大株主である創業者らの資産も急激に増えています。「政策研究インスティチュート」が3月18日と6月17日の資産を比べた結果、世界で最も裕福とされるアマゾンのジェフ・ベゾスCEOの資産は、438億ドル(約4兆6900億円)増えて1586億ドル(約16兆7800億円)になり、フェイスブックのザッカーバーグ氏も321億ドル(約3兆4300億円)増えて868億ドル(約9兆2900億円)になっていました。これらの資産は現場の労働者によって生み出されているのです。

「最もリスクが高い労働者への保険や手当を与えるのが課題」

「IT産業の従業員は在宅勤務で感染リスクから守られ、スーパーで働く人は客や同僚と接するうえ、防護も手薄。両者の間にあった大きな格差は、コロナ禍でさらに広がった」「アメリカの『最前線の労働者は約5千万人』おり、労働者全体の3分の1を占める。医師や薬剤師など一部は高給だが、レジ係など平均賃金以下で働く人々が圧倒的に多い」と、ブルッキングス研究所のジョセフ・ケーン上級研究員は、アメリカの労働者の現状分析を報告しています。
新型コロナの感染が広がり続けているなか、ケーン氏は「最もリスクが高い労働者に防護服だけでなく、医療保険や危険手当をどう与えるのか、喫緊の課題だ」と指摘しています。

「コロナ禍はアメリカの構造的な差別を浮き彫りにした」

アメリカ労働省が2019年に公表した調査では、大卒以上の人は約52%が在宅勤務が可能でしたが、高卒では約13%です。また、収入が高いほど、在宅勤務できる割合も高く、教育や賃金の格差は、在宅勤務が可能かどうかにあらわているのです。
最前線の仕事は、失業のリスクもあります。アメリカ労働省が7月2日に発表した6月の雇用統計の失業率は全体で11.1%でした。業種別に見ると「レジャー・接客業」は28.9%、「卸売・小売業」は11.2%で、現場に近いほど失業率が高いのです。
白人警官が黒人男性を死なせたことから広がった抗議デモでは、こうした構造的な格差への対処を求める声も高まっています。米エイズ研究財団のグレゴリオ・ミレット副会長は「コロナ禍は米国の構造的な差別を浮き彫りにした」と語ります。

「労働者の抗議行動が広がる」

ニューヨーク州にあるアマゾンの物流センターで働いていた労働者は3月、急激な需要増の中でめまいを訴えたり、吐いたりする人が増えるのを見て、恐怖を感じたそうです。「マスクも、消毒液も、身を守るものは一切なかった」と語るこの労働者は3月末、物流センター前で抗議をおこない、解雇されました。アマゾン側は「感染者と接触があり、有給で2週間自宅にとどまるよう求められていたのに、現場に来て、同僚をリスクにさらした」ことが理由だとしていますが、解雇された労働者は「抗議行動の報復だ」と主張しています。
アマゾンは新型コロナ対策を拡充のために、4月末には40億ドル(約4280億円)を投じることも打ち出しましたが、労働者の抗議活動は、他の企業の従業員にも広がっています。

「労働者の命を守るために組織しよう」

アメリカの大企業は、新型コロナの感染が広がっても、経営者らは安全な場所で現場の労働者が生み出した利益を独占し、危険にさらされながら働くスーパーや物流の従業員など現場の労働者の健康や生活を顧みない姿勢を貫いています。日本国内でもアメリカと同様の現象が労働現場で起きています。
私たち労働組合には、アメリカの労働組合と連帯して、最前線で命の危険を冒して働く労働者を守るための闘いが求められています。労働者が団結する条件がある今、組織を拡大する行動を展開しましょう。

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