「関西生コン支部の運動と弾圧の背景」(No.5)
木下武男(労働社会学者・元昭和女子大学教授)
昨年(2019年)10月14日に行われた「関西地区生コン支部への弾圧を許さない10.14東京集会」での木下武男さん講演を採取して紹介します。(文中、写真、グラフ、図は木下武男さん提供によるものです)
No.4からのつづき…
「集団交渉・集団取引の威力を示す関生の運動」
教訓の2番目は集団交渉です。先ほど言いましたが「共通規制」を産業別交渉で実施する。これは「集合取引」です。これは「団体交渉」と訳されていますが、「集合取引」と表現した方が実態を表しています。コレクティブ・バーゲニングです。コレクティブな形、つまり集合していく。まとめ売りをするために労働者を組織して労働組合の中に入れてしまうことです。そして経営者に対してバーゲニング(取引)をする。労働者の個別取引、つまり一人ひとりの「バーゲンセール」を禁止してコレクティブなバーゲニングをしていく。
それが「教訓2」である関生支部の団体交渉です。1973年、14社を相手にしてはじめて集団交渉を実現しました。集団交渉への参加を明確にしない企業に対しては指名スト、時限スト、波状スト、統一ストを行います。これが産業別統一闘争の重要なところで、最も戦闘性を発揮すべきところです。統一交渉から落ちる企業に対しては徹底的に運動を仕掛けるということがとても大事なのです。ここが、権力が一番攻撃してくるところでもあります。企業内で交渉しているうちはそんなに権力は言わないんです。産業別交渉に加わらない企業への抗議行動や、企業を超えた支援スト、強力な産業別統一闘争、これを権力は許さないのです。
「産業別統一闘争に不可欠の統一司令部」
これと「教訓3」が関連します。集団交渉に参加させるための産業別統一闘争が最も重要ですが、それを闘い抜くには、統一司令部が不可欠です。
欧米の産業別組合の末端組織はどうなっているのか。そこでは労働組合の権限を、企業に置かないのです。イギリスでは「ブランチ」、フランスでは「サンディカ」、アメリカでは「ローカル・ユニオン」というのですが、図を示しました。産業別全国組織がありまして、その下に産業別地域組織があります。これが組合権限を持っていて、その下に企業組織があります。A社、B社、C社とありますけれども、ここに執行権と人事権、財政権を置かないのです。これが産業別組織、産業別統一闘争を発展させる重要な組織的保障となります。
関生支部もそのような強い統制力を持った指導部体制ができます。実はこれは歴史的には古いのです。武委員長が言っていたのは、結成当時に全日本海員組合出身の専従がいて、その方のアドバイスではないかとのことでした。海員組合は1962年の時短の闘いで579隻の船を止めました。海員組合はそういう力を持っていた。その出身者の方から、海員組合の経験から、最少からそういう組織をつくったのではないかと思われます。
「日本資本主義の根幹を揺るがす関生の運動」
これまでに述べた教訓の1、2、3、これらは普通の欧米型の労働組合のあり方です。しかし「教訓4」、これは欧米にありません。労働組合主導型の事業協同組合をつくりました。日本独自の系列下請け構造、これは欧米にはないというのが私の考えです。だいぶ前ですけれども、ヨーロッパに建設産業の労働協約の実態を聴き取り調査に行ったことがあります。しつこく聞きました。日本の場合は公正な商取引が成り立たない構造、つまり収奪構造が存在しています。フェアじゃない、アンフェアな下請け構造です。欧米にはこういう収奪構造はないと考えられます。
この収奪構造が生コン産業にもある。ゼネコンと、大手セメントメーカー、これらの大手企業に買い叩かれながら、生コンの低い単価設定されている。そういうものに対してどう闘っていくのか。これがまさしく関生支部の重要な教訓です。
1981年のことです。これは有名な話しですけど、大槻文平(日経連会長・三菱鉱業セメント会長)が「関生支部の運動は資本主義の根幹にかかわるような運動をしている」「関生支部の運動は箱根の山を越えさせない」。東京の鈴木コンクリートの闘いはこれを超えているんですけど、本当の意味では、種は蒔かれたが、まだ業種別結集というところまでは至っていません。しかし発言の真意はどこにあるのか。資本主義の根幹と言ったときに、大槻文平はおかしいのではと思いました。なぜならば、関生支部の1、2、3の教訓、これらは、アメリカの場合は団体交渉のやり方は少し違うんですけど、基本的にはヨーロッパでは当たり前。ヨーロピアンスタイルなのです。ヨーロッパの資本主義の根幹揺らいでいるわけではありません。しかし資本主義に「日本」をつけたら合点がいきます。日本資本主義の根幹にかかわるんです。中小の系列下によって大資本の支配が成り立っている。ここにくさびを打ち込むことになります。
本筋から少し離れますが、最近、思ったことは事業協同組合を労働組合主導でつくるということは保守政治の基盤が揺らぐことになります。労使共同セミナーなどを中小業者と一緒にやっていますが、そこで、武委員長が天下国家を論じているのです。経営者を前にやられるんですよ。中小業者はかつては自民党支持者だし、今でもそうかもしれない。そういう人を相手に政治の話しをする。保守政治の基盤は業者団体の組織です。選挙にはいるときに保守政治家は必ず組織、組織、組織と言いますが、商工会議所、商店街もありますが、主に業者団体です。建設産業の業者団体など公共事業で潤った業者を中心に票をまとめるのです。この一角が生コンの業者団体のようになってしまえば保守政治の支持基盤は揺らぐと思います。そういう面もあるなと最近思いました。なんと言っても「教訓4」が重要だと思います。
No.6につづく…
最新著書(2021年3月19日刊行)『労働組合とは何か』(岩波新書・900円)
※「序局」第23号(2020.01)に掲載された記事を、発行責任者・編集責任者の許可を得て掲載しています。
「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会」への賛同の呼びかけ PDF
「関生事件」が揺るがす労働基本権
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挑戦を受ける労働基本権保障――一審判決(大阪・京都)にみる産業別労働運動の無知・無理解 (検証・関西生コン事件1)(日本語) 単行本 – 2021/4/20
業者団体と警察・検察が一体となった組合弾圧=「関西生コン事件」がはじまって4年。
労働法研究者、自治体議員、弁護士の抗議声明が出され、労働委員会があいついで組合勝利の救済命令を下す一方、裁判所は産業別労働組合への無知・無理解から不当判決を出している。
あらためて「関西生コン事件」の本質、不当判決の問題点を明らかにする!
連帯ユニオン(著)、小谷野 毅(著)、熊沢 誠(著)、& 2 その他
発行・旬報社、定価800円+税
「関西生コン事件」がはじまってから4年目となります。
関生支部(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部)を標的として、大阪広域生コンクリート協同組合(大阪広域協組)が日々雇用組合員の就労拒否(400人以上)、正社員組合員の解雇、業界あげての団交拒否を開始したのが2018年1月。このあからさまな不当労働行為の尻馬に乗って、滋賀県警が半年後の2017年7~8月にかけて組合員と生コン業者ら10人を恐喝未遂容疑で逮捕しました。その後、大阪、京都、和歌山の三府県警が、2019年11月にかけて、じつに11の刑事事件を仕立てあげ、のべ89人もの組合員と事業者を逮捕。数え上げるとじつに計18回も逮捕劇がくりかえされ、のべ71人が起訴される事態に発展しました。いずれも、ストライキやビラまき、建設現場の法令違反を調査、申告するなどして公正な取引環境を実現するためのコンプライアンス活動、破産・倒産に対して雇用確保を求める工場占拠闘争など、あたりまえの労働組合活動が、恐喝未遂、恐喝、強要未遂、威力業務妨害といった刑事事件とされたものです。
業者団体と警察・検察が表裏一体となった組合弾圧、それが「関西生コン事件」です。
これに対し、歴代の労働法学会代表理事経験者を多数ふくむ78人の労働法学者が2019年12月、憲法28条の労働基本権保障や労働組合法の刑事免責を蹂躙する警察・検察、そしてそれを追認する裁判所を批判して「組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない」とする声明を公表しました。全国各地の120人超の自治体議員の抗議声明、弁護士130人の抗議声明なども出されます。また、自治労、日教組などの労働組合や市民団体がつくる平和フォーラムが母体となって「関西生コンを支援する会」が結成されたのをはじめ、各地で支援組織が2019~20年にかけてあいつぎ結成されます。「関西生コン事件」は関生支部だけの問題ではない、労働組合の権利そのものを脅かす事態だという認識が広がっています。
さらに、冒頭に述べた一連の解雇、就労拒否、団交拒否に対抗すべく関生支部が申し立てた20件近い不当労働行為事件において、大阪府労働委員会が2019年秋以降、あいつぎ組合勝利の救済命令を下しています。その数は命令・決定12件のうち10件(2021年4月現在。大半が中央労働委員会に再審査事件として係属)。団結権侵害を主導した大阪広域協組の責任が明確になってきました。
一方、11件の刑事事件はその後、各事件の分離、併合の結果、大阪、京都、和歌山、大津の四地裁において8つの裁判に整理され、審理がすすめられ、現在までに、大阪ストライキ二次事件(2020年10月)、加茂生コン第一事件(同年12月)、大阪ストライキ一次事件(2021年3月)の3つの一審判決が出されています。
これら判決は、労働委員会事件で出された勝利命令とは対照的に、いずれも労働組合運動に対する浅薄な理解と認識をもとに、大阪広域協組の約束違反や企業の不当労働行為を免罪する一方で、産業別労働組合としての関生支部の正当な活動を敵視するものとなっています。
そこで、この機会に、あらためて「関西生コン事件」とはなにか、また、これら不当判決の問題点はなにかを、労働組合運動にたずさわる活動家のみなさまをはじめ、弁護士、研究者、ジャーナリストのみなさまに一緒に考えていただくために、裁判や労働委員会に提出された研究者の鑑定意見書などを収録した『検証・「関西生コン事件」』を随時発刊することにしました。
控訴審において無罪判決を勝ち取るために努力するのはもちろんのことですが、不当判決を反面教師として、先達が築いてきた労働運動の諸権利を学び直し、新たな運動を創造していくことが私たちに求められていると考えます。本書がその手がかりとして活用されることを願ってやみません。
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641日勾留された武委員長が語る
「関西生コン事件」で逮捕された武建一委員長は今年5月29日、641日ぶりに保釈された。その1ヵ月後に収録されたロングインタビューをまとめた本が昨年12月10日発刊された。
・一連の事件は、なぜ起きたのか?
・関生支部とはどのような労働組合なのか?
・武建一という人物はいったい何者なのか?
そんな疑問に事実をもって答える1冊。ぜひ、お読みください。『武建一が語る 大資本はなぜ私たちを恐れるのか』
発行・旬報社、四六判218ページ、定価1500円+税
*全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)にお申し込みいただければ頒価1500円(送料込み)でお届けします。多部数の場合はお問い合わせください。
お問い合わせ03-5820-0868
【目 次】
第1章 刑事弾圧
641日にもおよんだ勾留生活/なぜ私は逮捕されたのか/協同組合の変質/労組破壊に参加したレイシスト
第2章 「タコ部屋」の過酷労働
私の生い立ち/「練り屋」と呼ばれて/労働運動に目覚める/関生支部の誕生/初めての解雇
第3章 闘いの軌跡
万博不況とオイルショック/ヤクザと生コン/経済界が恐れる産業別労働運動
第4章 大同団結
安値乱売で「がけっぷち」/大阪広域協組の誕生/シャブコン/2005年の弾圧事件/ゼネスト決行/目指すべき場所
解題・安田浩一(ジャーナリスト)
皆様には御元気で御活躍のことと存じます。
この間、全国の多くの皆様より私たち関生支部に対する国家権力と大阪広域生コンクリート協同組合、差別排外主義者集団が一体となった攻撃をはね返す闘いに、多大な御支援をいただきまして誠にありがとうございます。
このたび、著書『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を昨年12月10日に発行する運びとなりました。
今日まで、私は、会社の雇ったヤクザに5回以上殺されかけたり、刑事事件をでっち上げられ前科5犯にさせられています。
1980年代には日経連の大槻文平会長(当時)から「関生型運動は資本主義の根幹に触れる」と言われ、国家権力とマスコミからは「生コンのドン」「金を企業からむしり取る」などとして「反社会的勢力」とレッテルを貼られています。
それはなぜか。歴史と今日を振り返り、事実を元に書かせていただいています。
是非、一読下さい。
心より愛をこめて
武 建一
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