加茂生コン事件・最高裁判決の要点と検討 弁護士 森 博行
第1審の京都地裁判決は、被告人2名につき強要未遂罪の成立を認め、執行猶予付懲役刑を宣告したが、原審の大阪高裁判決はこれを破棄し、A脅迫罪で罰金30万円、B無罪とした。これに対し、2023年9月11日、最高裁は原判決を破棄し、事件を大阪高裁に差し戻す判決を言い渡した。
そこで、以下、最高裁判決の判断の要点を摘示し、若干の検討を加えたい。
1 就労証明書の発行義務ありと判示した点
組合員G、幼子を保育園に通園させるため、過去4回にわたり就労先の会社から就労証明書を発行されていたが、組合公然化後は発行を拒否された。第1審判決は、会社には法令上も信義則上も発行義務はないと判断したのに対し、原判決は、少なくとも社会生活上の発行義務はあったと判断した。
この点について、最高裁は次のように判示した。「E社は運転手として雇用していたGに対し、労働契約に付随する義務として、その子の保育所の継続利用のため、Gが・・・子ども子育て支援法22条に基づき京都府木津川市に提出する就労証明書を作成等すべき信義則上の義務を負っていたと認められる。そして、Gが作成した申立書がこども宝課によって受け付けられた11月28日以降も、同社が引き続き就労証明書を作成等すべき義務を負っていたことに変わりはない」
すなわち、最高裁は、強要罪における「義務のないこと」の意義につき、法令上の義務に限定せず、信義則上の義務も含むと解釈して、原判決の上記判断を是認したものであり、この点は大いに評価できる。
2 義務がある場合でも強要(未遂)罪が成立し得ると判示した点
原判決は、上記に続けて、「もっとも、義務のあることの実行を求める場合でも、その手段として・・脅迫を用い、その態様等が社会的に相当な範囲を超えていれば、相手方としては、そのような行為を受忍しなければならないとはいい難く、・・強要(未遂)罪の成立を認めるべき場合がある」とし、その上で、被告人両名には強要未遂罪は成立しないと判示した。
これに対し、最高裁は、原判決と同様に、義務がある場合でも強要(未遂)罪が成立し得るとしつつ、次のように判示して原判決を破棄した。
「原判決が、Gを雇用している旨の就労証明書を作成等すべきE社の義務の有無について、第1審判決が事実を誤認したことを指摘しただけで、・・・第1審判決が前提とするその余の事実関係について、第1審判決の認定が不合理であるかどうかを検討しないまま、強要未遂罪の成立を認めた第1審判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとしたことは、是認することができない」
具体的には、第1審判決の次の各認定について、原判決はその不合理性を示しているとは評価できないと述べている。
❶取締役Fが救急搬送された日の要求行為について、被告人らがFの体調不良を認識していたはずであると認定したこと。
❷その後3日にわたる要求行為について、Fは就労証明書を発行するつもりがないことを示していたと認定したこと。
❸会社閉鎖後の監視行為の目的について、廃業の監視と就労証明書の発行に向けた圧力とが併存すると認定したこと。
❹最終日の被告人Aおよび組合員Hの発言について、各発言を一連のものとして、Fに対し就労証明書の発行を要求するものと判断したこと。
3 原判決を破棄したが、自判しなかった点
本最高裁判決は、2012年2月13日の本件と同じ第一小法廷判決(覚せい剤チョコレート缶事件)を引用しているところ、同判決は、既に取調べ済みの証拠によって直ちに判決することができると判断して自判(控訴棄却)した。これに対し、本最高裁判決は自判せず、事件を大阪高裁に差し戻した。
つまり、原判決が第1審判決の事実認定の不合理性を十分に検討していないと述べているだけで、第1審判決の認定が不合理でないと判断したわけではない。したがって、上記❶~❹の点について、第1審判決の認定が不合理であることを主張立証するチャンスを与えられたということであり、弁護人としては、原判決の結論を死守する覚悟で審理に臨んでいきたい。
関生弾圧について家族の目から描いた『ここから~「関西生コン事件」と私たち』が5月10日、2023年日隅一雄・情報流通促進賞奨励賞に選出されました。詳しくはコチラ ココをクリック
映画 ここから 「関西生コン事件」と私たち
この映画は「フツーの仕事がしたい」「アリ地獄天国」など労働問題を取り上げ注目を浴びている土屋トカチ監督の最新作。「関西生コン事件」の渦中にある組合員たちの姿を描いた待望のドキュメンタリー映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』がこのほど完成。10月下旬から各地で上映運動がはじまった。10 月 23日には「関西生コン労組つぶしの弾圧を許さな い東海の会」が名古屋で、11月6日には「労働組合つぶしの大弾圧を許さない京滋実行委員会」京都で上映会。業界・警察・検察が一体となった空前の労働組合つぶしに直面した組合員と家族の物語を見つめた。(写真右は京都上映会 で挨拶する松尾聖子さん) 今後、11月13 日には護憲大会(愛媛県松山市)、同月25日は「労働組合つぶしを許さない兵庫の会」が第3回総会で、12月16日は「関西生コンを支援する会」が東京で、それぞれ上映会をひらく。
お問い合わせはコチラ ココをクリック
ー 公判予定 ー
9月はありません |
|
---|
関西生コン事件ニュース No.92 ココをクリック
関西生コン事件ニュース No.91 ココをクリック
関西生コン事件ニュース No.90 ココをクリック
関連動画 「関西生コン事件」報告集会 ココをクリック
検証•関西生コン事件❷
産業別労組の団体行動の正当性
A5判、 143ページ、 定価1000円+税、 旬報社刊
『検証•関西生コン事件』第2巻が発刊された。
巻頭には吉田美喜夫・立命館大学名誉教授の論稿「労使関係像と労働法理」。企業内労使関係に適合した従来の労働法理の限界を指摘しつつ、多様な働き方を基盤にした団結が求められていることをふまえた労使関係像と労働法理の必要性を検討する。
第1部には、大阪ストライキ事件の鑑定意見書と判例研究を収録。
第2部には、加茂生コン事件大阪高裁判決の判例研究を収録。
和歌山事件、大阪スト事件、加茂生コン事件。無罪と有罪の判断は、なぜ、どこで分かれたのか、この1冊で問題点がわかる。
[ 目次 ]
刊行にあたって—6年目の転機、 無罪判決2件 が確定 (小谷野毅)
序・労使関係像の転換と労働法理 (吉田美喜夫)
第1部 大阪ストライキ事件
・関西生コン大阪ストライキ2次事件・控訴審判決について (古川陽二)
・関西生コン大阪2次事件・鑑定意見書 (古川陽二)
・「直接労使関係に立つ者」論と団体行動の刑事免責 (榊原嘉明)
第2部加茂生コン事件
・労働法理を踏まえれば無罪 (吉田美喜夫)
・労働組合活動に対する強要末遂罪の適用の可否 (松宮孝明)
割引価格あり。
お問い合わせは sien.kansai@gmail.comま