「取り調べ受忍義務」は憲法に矛盾している
「取り調べ受忍義務」は、日本の刑事司法制度で最も深刻な問題の一つです。取り調べ中の被疑者が、黙秘権の行使後も取り調べに応じることを義務づける原則です。
その法的根拠について法の文言は正反対を定めているのですが、裁判官たちは、被疑者と被告人の権利に無頓着な解釈を通じて、この原則を作り出しました。
「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」
日本国憲法第38条は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定めています。「取り調べ受忍義務」はこれに矛盾します。裁判官たちは、被疑者に供述するよう圧力をかける許可を警察や検察に与えることで、憲法の原則を変えました。
最近の多くの事件で明らかになったように、警察官や検察官の高圧的な尋問や虚偽の自白、不当な起訴、人権を侵害する「人質司法」の背景には「取り調べ受忍義務」が存在してきました。取り調べの録画・録音記録によって、尋問者は被疑者に供述させるために極端な手段を取ることがわかっています。それでは、録音録画の義務がない刑事事件の97%では何が起きているのでしょうか?
「被疑者が取り調べにおいて尋問を打ち切る権利」
他国では黙秘権がより良く保護されています。アメリカでは、1966年の最高裁によるミランダ判決のもと、被疑者がいつ黙秘権を行使しても尋問を止めなければならず、以後の供述は証拠として使うことはできません。この判決で最高裁は、「被疑者が取り調べにおいて尋問を打ち切る権利を有しなければ自由な選択ができるとは言えない」という事実を認めました。ドイツ、イギリス、韓国でも、被疑者に尋問を拒否する権利を与えることで黙秘権が実質的なものになっています。
「ひどい日本の現状に声をあげよう」
日本の黙秘権問題には三つの解決策がありますが、世論の後押しが必要です。第一に、検察官が独自に捜査した事件や裁判員裁判対象事件に限らず、すべての事件の取り調べを録音・録画する。第二に、黙秘権を守るために、取り調べに弁護人立ち会いを認める。第三は、最高裁は黙秘権について構築された有害な法体系を再考する必要がある。つまり、被疑者に尋問を拒否する権利があることを認めるのです。
先進民主主義国で「取り調べの受忍義務」の原則が存在するのは日本ぐらいなのです。裁判官によって作られ、国会議員によって容認され、警察や検察によって歓迎されています。彼らが改革に抵抗するのは変化が不可能だからではなく、黙秘権が形骸化しているほうが都合がいいからなのではないでしょうか。あまりにひどい日本の現状に声をあげましょう。

中島光孝/著
出版社名 白澤社
ページ数 334p
発売日 2025年06月
販売価格 : 3,400円 (税込:3,740円)
目次
第一部 弁論が開かれた最高裁判決(ハマキョウレックス事件、日本郵便〔西日本〕事件―「非正規格差」をどう是正するか
空知太神社事件最高裁判決―政教分離原則違反はだれがどのような基準で判断すべきか
水俣病訴訟―公害企業救済か被害者救済か)
第二部 「戦争」にまつわる判決(大阪・花岡中国人強制連行国賠請求訴訟―国家の「強制」による「加害」を国家はいかに償うべきか
台湾靖国訴訟・小泉靖国訴訟―台湾原住民族はなぜ「靖国合祀」を拒否するか
「アベ的なるもの」との三〇年―フィリピン元「従軍慰安婦」補償請求訴訟/「君が代」斉唱拒否訴訟/安倍国葬違法支出公費返還請求住民訴訟)
第三部 労働組合をめぐる判決(三菱重工長崎造船所〔労働時間〕事件―「労働と労働組合活動」を考える
住友ゴム工業事件・近鉄高架下文具店長事件―「職場の労働組合活動」を考える
関西生コン支部刑事弾圧事件―「労働基本権保障」の意味を考える)
真相はこれだ!関生事件 無罪判決!【竹信三恵子の信じられないホントの話】20250411【デモクラシータイムス】
ご存じですか、「関西生コン」事件。3月には、組合の委員長に対して懲役10年の求刑がされていた事件で京都地裁で完全無罪判決が出ました。無罪判決を獲得した湯川委員長と弁護人をお呼びして、竹信三恵子が事件の真相と2018年からの一連の組合弾圧事件の背景を深堀します。 今でも、「関西生コン事件」は、先鋭な、あるいは乱暴な労働組合が強面の不法な交渉をして逮捕された事件、と思っておられる方も多いようです。しかしそうではありません。企業横断的な「産別組合」が憲法上の労働基本権を行使しただけで、正当な交渉や職場環境の改善運動だったから、強要や恐喝など刑事事件には当たらないものでした。裁判所の判断もこの点を明確にしています。では、なぜ暴力的組合の非行であるかのように喧伝され、関西全域の警察と検察が組織的に刑事事件化することになったのか、その大きな背景にも興味は尽きません。 tansaのサイトに組合員お一人お一人のインタビューも連載されています。ぜひ、どんな顔をもった、どんな人生を歩んできた人たちが、濡れ衣を着せられ逮捕勾留されて裁判の法廷に引き出されたのかも知っていただきたいと思います。
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増補版 賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国
勝利判決が続く一方で新たな弾圧も――
朝⽇新聞、東京新聞に書評が載り話題となった書籍の増補版!関生事件のその後について「補章」を加筆。
1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけだ。そんな中、関西生コン労組は、労組の活動を通じて、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も、実現した。そこへヘイト集団が妨害を加え、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合潰しが行なわれているのか。迫真のルポでその真実を明らかにする。初版は2021年。本書はその後を加筆した増補版である。
◆主な目次
はじめに――増補にあたって
プロローグ
第1章 「賃金が上がらない国」の底で
第2章 労働運動が「犯罪」になった日
第3章 ヘイトの次に警察が来た
第4章 労働分野の解釈改憲
第5章 経営側は何を恐れたのか
第6章 影の主役としてのメディア
第7章 労働者が国を訴えた日
エピローグ
補章 反攻の始まり
増補版おわりに

この映画は「フツーの仕事がしたい」「アリ地獄天国」など労働問題を取り上げ注目を浴びている土屋トカチ監督の最新作。「関西生コン事件」の渦中にある組合員たちの姿を描いた待望のドキュメンタリー映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』がこのほど完成。業界・警察・検察が一体となった空前の労働組合潰しに直面した組合員と家族の物語を見つめた。(左写真は松尾聖子さん)いまも各地で上映会がひらかれている。
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ー 公判予定 ー
10月31日 国賠裁判 東京地裁(判決) | 15:00~ |
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11月18日 大津第2次事件 大阪高裁(判決) | 14:30~ |