関西生コン型の労働運動とは何か木下武男(元昭和女子大学教授)
No.1からのつづき

「関西生コンへの弾圧とは」

では、なぜ逮捕されたのか。映画にもあったように、労働組合の権利を踏みにじる、憲法28条を形骸化していく動きであることは確かです。
私が言いたいのは、武委員長が言っていた「関西生コンのような運動とは一体何なのか」があまり理解されていない。私が武委員長に成り代わってお伝えすることが役割だろうと思っていろんなところでお話ししていますが、割と難しいのです。
その話の前に、2010年関西生コンの大ストライキは非常に影響が大きかったし、経営側にもインパクトがあったので、紹介します。2010年7月から139日間ストライキをやりました。その時、大阪のゼネコンの大きな現場3つを止めました。それは8割の建設現場の仕事がストップする規模でした。ひとつは生コン、後はバラセメント、そして圧送です。
生コンの仕事のことを話します。生コンというのは、セメントと砂利と水を混ぜて生コンクリートを作る。それを現場に1時間半以内に持っていかないと固まってしまう。生コンのセメントをセメントメーカーから生コンの工場に運ぶのがバラセメント労働者です。生コンを現場へ運搬するのが運転手で、その生コンを現場で流し込む仕事、打設というのですが、これが圧送労働者です。大きなパイプを何本もロープで束ねて走っているトラックを見ると思いますが、それが圧送の労働者です。その3つともが小さい業界だけど、その業界の労働組合が団結すれば、長期のストライキでゼネコンの現場を止めることができるのです。業界や業種で団結すればそれだけの力を発揮します。そのやり方が「生コンの運動のような」と武さんが言ったものです。

「労働者同士の競争をさせない労働組合の原点に闘ってきた」

その運動とは何かの話ですが、根本は映画で武洋一さんがおっしゃられていましたが、「競争をやめさせる」ということです。この言葉は当たり前のようですが、日本の労働運動になかなかないのです。政府が悪い、経営者が悪らつだ、だから労働者の状態が悪くなっている。よくそう言われます。確かにそうですが、もっと労働者の内部に目を向けるべきです。根本は労働者同士が足を引っ張って、競争しあっている。それをやめさせる、これが労働組合の原点です。
どうすればいいのか。例えば皆さんがアルバイトをしなければと思ったとき、コンビニなんかでアルバイト募集の張り紙を見ますね。そこで職に就きたい人は、Aさんは800円でもいい、Bさんは1000円でもいいや、Cさんは1200円でないとイヤだ、いろいろな人がいる。そのとき雇い主は「800円でいい」というAさんを雇うのです。それが競争です。「1200円じゃないと働かない」と言った人には絶対に職がない。だから競争に負けてしまう。じゃあ「最低1000円にしましょう」、これが労働組合の原点で、関生運動です。「1000円」を、経営者団体と労働組合が団体交渉して決める。例えば、コンビニエンスストアの多くの企業で労働組合を組織する。コンビニ業界と団体交渉して、「1000円ではないと働きません。約束しましょう」と労働協約で取り結ぶのです。
これが競争規制の原点ですが、このような個人同士の競争だとわかりやすい。だけど、A社、B社、C社、D社になると、企業同士の競争に労働者が巻き込まれてしまう。バイト募集の張り紙のように見えるものではなくなってしまいます。なぜなのか。見えなくなってしまうのは、コンビニのアルバイト募集の賃金のように、時給でいくらとはならないからです。企業の賃金は、年功賃金で、年齢や勤続や能力、男女差で、企業ごとにバラバラに決められます。ここが関生運動の肝心要のところです。映画のなかで武洋一さんが「ミキサー車何万、バラセメント何万」というように説明されていました。どの会社でも、生コンの運転手は1日何万円という決まりにしていく。これはなかなか難しい。なぜなら、仕事を基準にして同じにすることが日本では理解されないからです。しかし、資本主義の社会では、労働者は自分のただ一つの財産である労働力を商品として売って、生活しているのです。商品の値段をA社、B社、C社という企業ごとではなく企業を超えて決めてしまう。関西生コン支部はやったのです。
これが企業同士が競争し合っているなかでとても重要なことです。企業同士の競争に、企業が勝ち抜くのは簡単なことです。自分のところの労働者の賃金を下げて、労働時間を長くして、労働者をこき使えばいいからです。これが日本の労働者の悲惨なところです。
関生支部の運動はこれに挑戦したのです。会社を超えたお値段ナンボの基準をつくらなければならない。そしてA社だけと交渉するのではなく、全部の企業が交渉に出てきなさい。アウト企業というのがあります。この集団交渉に出てこない企業がアウトです。出てこない企業に対して、武さんたちは徹底的に攻撃する。それは産業別統一闘争で当然であり、海外でもインダストリアル・アクション(産業闘争)と言っています。日本ではこれに警察権力が敏感に反応するのです。企業別組合が、会社のなかでテーブル叩いて交渉しても、そんなに言わない。だけど産業別組合のところで、集団交渉に来させるために、アウト企業に「お前こっち来い」と言ったときに弾圧がくる。企業を超えて労働組合がまとまり、そして経営者をまとめ、相互に交渉し合って決めていく。このことを日本の経営側と権力が恐れているのです。
武さんが関生運動を全国化したいというのは、これなのです。これが多くの産業・業種・職種に広がったらどうなりますか。例えば、トラックやタクシー、ダンプ、バスの職種の賃金はいくら、エステの労働者はいくら、ベンダーの人はいくら、保育士、介護士、看護師、IT技術者などなど、これができてしまいます。そうすると関西生コンの労働者の労働条件のように上がっていく。これが日本の経営者は怖いのです。これが、弾圧の背景なのだと私は思っています。

No.3につづく…

「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会」への賛同の呼びかけ 
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デモクラシータイムス
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ヘイトの後に警察が来た~関西生コン事件
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またもや、組合側勝利命令!←吉田生コン地位保全等仮処分申立事件

公判が日程変更や中止になっています。確認お願いします。

労働組合やめろって警察にいわれたんだけどそれってどうなの(憲法28条があるのに…) 単行本 – 2020/3/6
連帯ユニオン、葛西 映子、北 建一、小谷野 毅、宮里 邦雄、熊沢 誠、海渡 雄一、鎌田 慧、竹信 三恵子(著)

内容紹介
戦後最大の「労組壊滅作戦」が進行。
警察・検察・裁判所による弾圧。
権力と一体となった業界あげての不当労働行為。
関西生コン事件の本質を明らかにする!
ストライキやコンプライアンス活動を「威力業務妨害」「恐喝未遂」として89人逮捕、71人を起訴。
委員長と副委員長の拘留期間は1年5か月超。
取り調べで「組合をやめろ」と迫る警察。
家族に「組合をやめるよう説得しろ」と電話をかける検察。
組合活動の禁止を「保釈許可条件」とする裁判所。
いったい誰が、なんのために仕掛けているのか「?関西生コン事件」の真相。お問い合わせは、連帯ユニオンまで TEL:06(6583)5546 FAX:06(6582)6547
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