「関西生コン支部の運動と弾圧の背景」(No.1)
木下武男(労働社会学者・元昭和女子大学教授)
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(関生支部)に対する弾圧は、2018年7月以降、のべ89人が逮捕され、その8割が起訴され、武建一委員長は1年半も勾留(2回の年越し)され続けている。当たり前の労働組合活動を「犯罪」にでっち上げ、警察と裁判所が労働組合の組織を丸ごと壊滅しようとしている。
これは、安倍政権の憲法改悪への攻撃の一環であり、労働組合の存在そのものを認めない、という現代の産業報国会つくりである。これに対する広範な怒りの闘いが巻き起こり、関生支部自身が決してつぶされず、反転攻勢を誓っている。本誌は、18号で武建一委員長に、20号で武谷新吾書記次長にインタビューして、その闘いの現実と理念を語っていただいてきた。今号では、昨年(2019年)10月14日に行われた「関西地区生コン支部への弾圧を許さない10.14東京集会」での木下武男さん講演を採取して紹介します。(文中、写真、グラフ、図は木下武男さん提供によるものです)

「本当の労働組合」の闘い

今日の講演では、これまでの労働組合に対して「本当の労働組合」という言葉を使いますが、欧米や世界的な基準からすると、日本の労働組合はそれから外れています。これまで、労働組合の講演を頼まれると、このような視点からいろいろ力説して回るものですから、参考になりそうなところだけ気にとめていただければと思います。私が言いたいことは関生支部のような労働組合の運動を全国で、全産業で広げることが今回の弾圧の最大の反撃になるのだといことです。
私は関生支部の運動そのものが、経営側・政府に敵視されているということについて強調したいと思います。私は小池百合子東京都知事が希望の党をつくろうとしたときに、これで日本の政治は戦前の「大政翼賛会」になるのではないかと思いました。今度の関生支部の弾圧は、日本は「産業報国会」になるのではと考えたわけです。今は戦前と違いますので、一般的に労働組合を弾圧するということは独裁国家になるので国際的な経済活動からしても得策ではない。だから民間の大企業労組はそのままにしておくけれども、闘う労働組合については許さない。これが関生弾圧の背景だと思います。
さらにもう少し踏み込むと、私が言いたいのは、それでは闘う労働組合とは何かということです。確かに政治闘争を果敢に取り組むのは政府にとって目障りでしょう。しかしそれだけではなく、どんなに小さくとも産業別労働組合という種が日本で芽を出している、その存在そのものが経営側にとっては許せないし、またそれが広がることへの恐怖を感じているのだと思います。それはなぜが。関生支部の運動は、戦後、経営側が営々としてつくり上げてきた企業別分断を乗り越え、企業を超えた階級的連帯を築くことになりかねないからです。

「関生運動の全国化と弾圧の予感」

この関生の運動を全国に広げたいというのが武委員長の希望でした。その思いを私が強く感じた場面がありました。私は、1999年に『日本人の賃金』(平凡社新書)を書いた辺りから注目していました。年功賃金が主流の中で職種別の賃金を掲げて闘っている。ほとんどだれも注目しませんでしたでしたが、画期的なことだと書きました。
また2007年の『格差社会に挑むユニオン』(花伝社)では、関生支部の闘いをやや詳しく経験を教訓化して紹介しました。この本は金元重(キムウォンジュン)先生の翻訳で韓国語版で向こうで出版されていますので、関生支部の闘いは韓国でも読むことができるようになっています。
関生運動に注目していた私と武委員長が遭遇したのが、2016年、『関西地区生コン支部労働運動50年』の東京での刊行記念シンポの時です。そこで武委員長は関生支部の経験を全国に広めたいんだと力説されていました。私は隣に座っていてその言葉を受けとめ、これをどういう風に広げていけば良いのだろうかと考えました。関生支部の運動は、企業別ではなくて、業種別・職種別に労働者の結集を図ることであり、そして処遇は職種別に、団体交渉は業界を相手に、このような運動として捉え返せば、それは欧米の労働組合のやり方だし、それを日本的な特質で実現させることだと思いました。それで2017年7月、「業種別職種別ユニオン運動研究会」を立ち上げました。武委員長の話を含めましてホームページで見ることができるようになっています。
立ち上げとともに、やがて関生支部の弾圧の問題が出てきました。2017年の暮れに関生支部に対する本格的な弾圧がかかりそうだということで、その反撃として、2018年の8月から関西生コン関連連続講座というのを研究会でやりました。その時、8月25日に武委員長がお話しされました。その3日後の28日に武委員長は逮捕されました。次に、2018年の9月に先ほどの西山さんからバラセメントの報告をしていただきました。西山さんはその後で逮捕されました。お二方の報告を私の責任で原稿化するハメになりました。この連続講座は、関西地区生コン支部の運動とともにバラセメントの労働者、そして圧送業界の労働者というように生コン運動が広がっていることが非常によく分かります。
関生支部の運動についても大阪だけでなくて、広がってきている。そして後でお話しします事業協同組合を含めて、中小業者の賛同も広がってきている。逮捕前の武委員長は、関生支部の運動の広がりは、やがて全国に広がっていくだろう、こういった動きに対して弾圧がなされるかもしれない、そのようにご本人は予感されておられました。
No.2につづく…

※木下武男(きのした たけお)さん。1944年生まれ。労働社会学者。法政大学で非常勤講師14年間、労働組合論の講義。元昭和女子大学教授。著書に『日本人の賃金』(平凡社新書)、『格差社会に挑むユニオン』(花伝社)など。
最新著書(2021年3月19日刊行)『労働組合とは何か』(岩波新書・900円)

※「序局」第23号(2020.01)に掲載された記事を、発行責任者・編集責任者の許可を得て掲載しています。

「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会」への賛同の呼びかけ PDF

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「関生事件」が揺るがす労働基本権
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なぜ、いま戦後最大規模の刑事弾圧が労働組合に加えられているのか!?
641日勾留された武委員長が語る

「関西生コン事件」で逮捕された武建一委員長は今年5月29日、641日ぶりに保釈された。その1ヵ月後に収録されたロングインタビューをまとめた本が昨年12月10日発刊された。
・一連の事件は、なぜ起きたのか?
・関生支部とはどのような労働組合なのか?
・武建一という人物はいったい何者なのか?
そんな疑問に事実をもって答える1冊。ぜひ、お読みください。『武建一が語る 大資本はなぜ私たちを恐れるのか
発行・旬報社、四六判218ページ、定価1500円+税
*全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)にお申し込みいただければ頒価1500円(送料込み)でお届けします。多部数の場合はお問い合わせください。
お問い合わせ03-5820-0868
【目 次】
第1章 刑事弾圧
641日にもおよんだ勾留生活/なぜ私は逮捕されたのか/協同組合の変質/労組破壊に参加したレイシスト
第2章 「タコ部屋」の過酷労働
私の生い立ち/「練り屋」と呼ばれて/労働運動に目覚める/関生支部の誕生/初めての解雇
第3章 闘いの軌跡
万博不況とオイルショック/ヤクザと生コン/経済界が恐れる産業別労働運動
第4章 大同団結
安値乱売で「がけっぷち」/大阪広域協組の誕生/シャブコン/2005年の弾圧事件/ゼネスト決行/目指すべき場所
解題・安田浩一(ジャーナリスト)
皆様には御元気で御活躍のことと存じます。
この間、全国の多くの皆様より私たち関生支部に対する国家権力と大阪広域生コンクリート協同組合、差別排外主義者集団が一体となった攻撃をはね返す闘いに、多大な御支援をいただきまして誠にありがとうございます。
このたび、著書『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を昨年12月10日に発行する運びとなりました。
今日まで、私は、会社の雇ったヤクザに5回以上殺されかけたり、刑事事件をでっち上げられ前科5犯にさせられています。
1980年代には日経連の大槻文平会長(当時)から「関生型運動は資本主義の根幹に触れる」と言われ、国家権力とマスコミからは「生コンのドン」「金を企業からむしり取る」などとして「反社会的勢力」とレッテルを貼られています。
それはなぜか。歴史と今日を振り返り、事実を元に書かせていただいています。
是非、一読下さい。
心より愛をこめて
武 建一

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