4月21日名古屋高裁 イオン幹線便トラックドライバーの労災認定裁判
控訴棄却を弾劾する - 情報化社会に劣化する司法

1.新認定基準後の初めての裁判

昨年、脳心臓疾患の労災認定基準が改められ、ヨーロッパ並みの勤務間インターバルが11時間未満であることを業務起因性を認める要素として取り上げられたことが話題となっている。
本件は2013年12月に原告が脳梗塞を発症、行政が労災認定を棄却したため、その取り消しを求めた裁判である。原告の勤務間インターバルは裁判所が平均8時間22分と認定している。しかし、控訴審判決は、「11時間未満のインターバルの回数が6か月で47日と少ない」ことを理由に業務起因性を否定した。この判断はデタラメである。そもそも勤務間インターバルは出勤日より毎週1日少ない(週初め前と週終わり後には存在しないから)。さらに、本件では脳梗塞発症前6か月に延べ3日に跨る連続勤務が16回ある。連続勤務は終業と始業が続いているのであるから、本来は勤務間インターバルがゼロ時間とされなければならない(労働局見解)が、この判決では勤務間インターバル11時間未満から除外された。

2.控訴審は内容の判断を行っていない
控訴審は1回審理―原審棄却は20数%

本件の控訴審判決文は、10年に及ぶ長期の審理が行われた裁判にも関わらず、高裁の判断を述べた部分はわずか3ページ弱、「控訴人は縷々主張して原審を非難するが、原審は全面的に是認できる」と無内容に断定、後は事件の概要や語句の訂正、通達や証拠の引用を添付して約30ページの判決書にして体裁を整えている。裁判長は検事上がりの土田昭彦裁判官。

名古屋高裁では控訴審が1回の期日で終了するケースがほとんどである。この日の判決も7件の判決が同時に読み上げられ、原審を破棄したのは離婚を求めた1件だけであった。日本の民事控訴は約20~25%、原審が破棄される、上告ではその数は約2%となるといわれている。
日弁連のパンフレットによると、日本の裁判官数は他の先進国と比べると人口比で極端に少なく、都市の裁判官は常時、単独事件を約200件、合議事件を約80件抱え、毎月約45件の新件が配置されているという。
情報化社会の今日、一つの裁判には膨大な証拠が提出される。本件でも原告は様々な角度から本件原告が脳心臓疾患の認定基準に合致するものであることを主張・立証した。1審判決もそうであるが、控訴審判決はそれらの観点について全く触れずにいる。実際問題、上記のような裁判官数と事件件数であるならば、裁判官は1審破棄の事件以外は、一つ一つの事件内容を検討していないであろうし、検討することもできないであろう。

3.数字に弱い裁判官

脳心臓疾患労災認定基準として、1か月前に100時間の時間外労働、または、前6か月に連続して80時間以上の時間外労働がある場合に業務起因性を認めていることは良く知られる。これは、専門検討会報告で長時間労働と脳心臓疾患の関連を唯一定量的に実証されているものとして「1日6時間未満の睡眠、5時間以下の睡眠が脳心臓疾患の発症率を上げる」とし、算定されたものである。その際、国民生活調査の結果として労働者の勤務と睡眠以外の生活時間は5時間であるという算定がある。即ち、1日4時間残業をすると拘束時間は1時間の法定休憩を入れて13時間、勤務インターバルが11時間、勤務インターバルが11時間だと5時間の生活時間を除外して睡眠時間が6時間というラインが引かれているのだ。
本件の原告は、裁判所が認めた平均拘束時間が1日17時間、先にも言及したようにインターバルは平均8時間22分(1日は24時間だからインターバルの平均は7時間でなければおかしいが、24時間以上の連続勤務が16回ある。)誰がどう考えても認定基準に合致しているのであるが、1審はこれを否定、控訴理由書では詳細にこの算数を説いて明らかにしたが、控訴審は無視した。裁判官は数字に弱いと断ぜざるを得ない。文系大学生の数学理解の後退が問題になっているが、裁判官もそうなのであろう。

4.4時間の残業代を支払えば、労働者を17時間拘束できるのか!?
それでは労働者は生きていけない!

勤務実態に即していえば、イオンの物流センターでは物量はその日に決まり、スーパーで売られている様々な荷物を混載、そのために積み込み作業はよく中断する。判決でも10トン車への積み込み時間は1~3時間の幅があることは認めている。原告らドライバーは事前に荷積みの順番を知らされず、三重県四日市にあるイオン物流センターに到着してから荷積みの直前に呼び出されるのであるが、原告は4番車が多かったという記録であるという。
判決は、「順番が知らされていなかったとしても現場に到着してから自分で聞けば積み込み時間は予想できた」として、工業団地にある物流センターにおいてトラックで待機した時間を労働時間から除外した。1番車は15時積み込み開始であるから、理屈上でも4番車なら積み込み開始予想時間は18時から24時と6時間の幅がある。その上で、それは実際の時間の統計的処理とも合致していない。
裁判所は17時間の拘束時間のうち、74.5%、約12時間が労働時間だとする。拘束時間は会社の点呼を受けて始まり、業務が終わって会社の点呼を受けて終了している。即ち使用者の管理する時間である。そうすると裁判所が認めた法解釈に従えば、使用者は4時間の残業代を支払って、労働者を17時間拘束できるということになる。
これで労働者が生きていけるであろうか?

司法の劣化に怒りの声を叩きつけたい。

2022年4月24日 愛知連帯ユニオン

「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会」への賛同の呼びかけ PDF

デモクラシータイムス 〈 2022.01.11 〉
池田香代子の世界を変える100人の働き人60人目
労働運動を〈犯罪〉にする国「連帯ユニオン関西地区生コン支部」事件
ゲスト:竹信三恵子さん(ジャーナリスト・和光大学名誉教授)
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関西生コン事件ニュース No.72 ココをクリック
関西生コン事件ニュース No.73 ココをクリック
2021年12月9日「大阪市・契約管材局と労働組合の協議」
回答が大阪市のホームページに掲載 
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賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国 竹信三恵子(著)– 2021/11/1 旬報社 1,650円(税込み)

1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけ。
そんななか、連帯ユニオン関西地区生コン支部は、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も実現した。
業界の組合つぶし、そこへヘイト集団も加わり、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合つぶしが行なわれているのか。
迫真のルポでその真実を明らかにする。

目次 : プロローグ
第1章 「賃金が上がらない国」の底で
第2章 労働運動が「犯罪」になった日
第3章 ヘイトの次に警察が来た
第4章 労働分野の解釈改憲
第5章 経営側は何を恐れたのか
第6章 影の主役としてのメディア
第7章 労働者が国を訴えた日
エピローグ

【著者紹介】
竹信三恵子 : ジャーナリスト・和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社、経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)、2011-2019年和光大学現代人間学部教授。著書に『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書、日本労働ペンクラブ賞)など。貧困や雇用劣化、非正規労働者問題についての先駆的な報道活動に対し、2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(「BOOK」データベースより)

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