国際人権を「闘う武器」に ―― 藤田早苗さんとの出会いと関生弾圧の中で見えた希望

国際人権を「闘う武器」に ―― 藤田早苗氏との出会いと関生弾圧の中で見えた希望

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「労働問題は人権問題だ」。関生弾圧のなかで、藤田早苗さんが放った一言が私の世界を変えました。世界人権宣言や国際条約という「武器」を知ることで見えてきた、日本社会の歪みと希望。ストライキが犯罪とされる現状を打破し、国際スタンダードな人権を根付かせるため何が必要なのか?

どん底で出会った一冊の本

2022年の冬、私は連帯ユニオン関生支部への弾圧の最中にあり、「どうすればいいのか? 何をすべきか?」と頭を抱えてもがいていました。 そもそも「権利」とは何なのか。労働組合は「権利侵害をやめろ!」と言うけれど、では「人権」とは一体何だったか。そんなキーワードを携帯で検索していた際に出会ったのが、出版されたばかりの書籍『武器としての国際人権』でした。
正月明けに読み始めると、平易で読みやすい文章に引き込まれ、あっという間に読了しました。読んでいくうちに「そうだったのか!」「まだ闘える武器がある!」と目の前が開ける思いがしました。これが、私が「ヒューマンライツ」を深く知るきっかけとなったのです。

藤田早苗さんとの出会い 労働問題は「人権問題」だった

それまでの自分自身の人権感覚を恥じると同時に、「自分は人権を何も知らなかった」と痛感しました。執筆者の藤田早苗さんに興味を持ち検索すると、ちょうど大阪のドーンセンターで講演されるとのこと。学識のない自分ですが、授業を受けるような気持ちで参加しました。 質疑応答では、自分たちの事件が「共謀罪」の適用第一号ではないかということ、ストライキで逮捕され労働者の権利が守られていない現状を、しどろもどろながら必死に話したことを覚えています。藤田さんは「労働問題も人権問題です」と仰いました。その言葉に、多くの気づきをいただきました。

国際社会とのパイプ:国連作業部会の訪日調査

数ヵ月後、イギリスにいる藤田さんから組合事務所に電話がありました。「国連の『ビジネスと人権』作業部会が、関生へ調査に来るから準備するように」との連絡でした。感謝する間もなく、そこから怒涛の日々が始まりました。数々の人権シンポジウムや、藤田さんが呼びかける学習会にも参加しました。 藤田さんは「関生事件はレポート提出だけでは不十分だ」と考え、実際に調査団が現地を訪れるよう、国連側へ粘り強くロビー活動をしてくださっていたのです。

「クリティカル・フレンド」としての国連勧告

「自由」や「人権」は脆いものです。 だからこそ、私たち一人ひとりがしっかりと「人権」を主張しなければなりません。人権を主張することを「わがまま」と言う人もいますが、人権は全員のものであり、独り占めするために主張するものではありません。 私たちは、たとえ義務を果たしていなくとも、日々人権を行使して生きています。また、人権の実現は「思いやり」や「優しさ」だけでは不十分であり、政府にはそれを保障する「義務」があります。日本に対して出されている数々の改善勧告を、私たちは知る必要があります。
国連から勧告を受けるのは、内政干渉ではありません。藤田さんはこれを「クリティカル・フレンド(批判的友人)」と表現します。日本のために、耳の痛いことでもあえて忠告してくれる存在という意味です。決して日本が憎くて勧告を出しているわけではなく、多くの国連加盟国はこれらの勧告に真摯に向き合い、対話を重ねています。

「国際基準」を知ることの重要性

1948年12月10日、国連総会で「世界人権宣言」が採択されました。 これは本来「ユニバーサル(普遍的)」な人権宣言です。「世界」と訳されたのはある種の誤訳とも言え、本来は「すべての人に当てはまる=普遍的」と訳すべきでした。人権はあらゆる人のものだからです。
第二次世界大戦時のアウシュヴィッツ収容所は、ドイツではなくポーランドにあります。各地からユダヤ人を収容しやすい場所だったからです。収容所長の家はすぐ近くにあり、大量虐殺が行われていても、彼は家に帰れば「普通の家庭生活」を送っていました。 民族・人種差別や迫害、ナチスによるホロコーストのような悲劇は、いつでも起こりうるのです。1965年、入管参事官だった池上努氏は著書で「外国人は煮て食おうが焼いて食おうが自由だ」と記しました。残念ながら、その人権意識は今も変わっていないのではないでしょうか。ウィシュマ・サンダマリさんの事件のような、人権が守られない悲劇が入管収容所では繰り返されています。 相手を「自分と同じ人間だ」と思っていれば、このような事件は起きないはずです。
沖縄戦の際、チビチリガマに避難していた約140名のうち85名が亡くなりました。「米兵に捕まったら虐殺される」と信じ込まされた人々が、互いに殺し合ったのです。その半数は子供だったといいます。 対照的に、約1000人が避難していたシムクガマでは、ハワイへの移民経験者が米兵に「ここには民間人しかいない」と英語で伝えたことで攻撃を免れ、全員が生還しました。 この移民経験者も米兵も、「戦争時でも一般人を殺してはいけない」という国際条約(国際基準)を知っていたのです。 「国際基準を知っていること」がいかに重要か、藤田さんは説いています。

当事者の男の子は性被害だと知らなかった

日本で人権を根付かせるには、何が必要でしょうか。 ジャニーズ事務所の性加害問題では、被害当事者が「何が被害なのか」を分かっていませんでした。もし知識があれば、逃げることができたかもしれません。 一方イギリスでは、子どもたちに「水着で隠れる場所は、他人に触らせてはいけない」と教育しています。自分の持つ権利を学んでいないから、侵害されたときに気づけないのです。
また、イギリスの少女がバイト先のマクドナルドでセクハラを受けた際、彼女は即座にそれが権利侵害だと理解し、アクションを起こしました。どこに通報し、何をすべきかを知っていたのです。彼女の行動をきっかけに、英国内各地の店舗で被害が発覚し、トップニュースとなって社会問題化し、マクドナルドは改善を迫られました。 権利を「知っている」か「知らない」かで、これほどの差が出るのです。こうした学びこそが本来の人権教育であり、国連も「人権は知識として学ぶ教育である」と定義しています。
日本では人権を「思いやり」や「優しさ」の問題にすり替えがちですが、国際スタンダードに則った教育が必要です。そもそも学校で「子どもの権利条約」の中身を教えなければなりません。暗記が目的ではなく、例えば「意見表明権」を学ぶことが大切です。イギリスでは遠足の行き先などを自分たちで先生に伝え、自分たちの意見で状況が変わることを実感させます。 日本の子どもたちは、「大人に言ってもどうせ変わらない」「声を上げても無駄だ」と諦めてはいないでしょうか。
ヨーロッパでは加害の歴史もしっかり教えます。自分たちにどのような権利があるかを学んだ子どもたちが、将来の社会を構成していくのです。一方、加害の歴史を学ぶことを「自虐史観」と切り捨て、人権教育から遠ざかる日本とは、あまりに大きな隔たりがあると感じます。

国際スタンダードから取り残される日本

藤田さんは「日本の企業人はよくSDGsのバッジを付けているけれど、あんなことをしているのは日本人だけ。海外では見かけない」と仰っていました。そういえば、関生と対立する側の人たちも、誇らしげにバッジを付けていたことを思い出します。藤田さんは「(実態が伴わないなら)恥ずかしいからやめてほしい」と指摘されていました。 最近は大手企業を中心に「ビジネスと人権の指導原則」に基づいた人権指針が策定されていますが、それが「絵に描いた餅」に終わらぬよう、実践を求めたいと思います。
日本では、目の不自由な方の手を引いて助けることを「人権」や「思いやり」だと捉えます。もちろん大切なことですが、それだけでは不十分です。そこに「優しい人」がたまたま居合わせるとは限らないからです。障害を持つ人々が当たり前に生活できる環境を整える「義務」は、国や政府にあります。 「子ども食堂」も同様です。本来は政府が取り組むべき貧困問題を、地域の「善意」や「共助」に丸投げしている側面はないでしょうか。ボランティア活動の過度な美化は、メディアも含めて非常に危険です。
国際人権において、国家には3つの義務があります。
1.尊重する義務(国家が不当に権利を制限しない)
2.保護する義務(第三者による人権侵害を防ぐ)
3.充足する義務(権利が享受できる環境を整備する)

これらの主体はあくまで国家や行政です。 また、あまり知られていませんが、国際条約は国内法よりも上位にあります。条約に反する法律は、本来撤廃・改正されなければなりません。日本政府は入管問題などで「国内法に基づいているから問題ない」と強弁しますが、条約の内容には拘束力があります。 日本政府は2013年に「国連の勧告に法的拘束力はなく、従う義務はない」との閣議決定を行っていますが、このような主張をしているのは先進国で日本だけだそうです。メディアも政府の言い分を鵜呑みにせず、背景を含めて報じるべきです。
さらに、日本には「個人通報制度」がありません。国内の最高裁判決が最終判断ではなく、条約に基づいて審査を申し立てられる制度ですが、日本はこれを批准していません。先進国で使えないのは日本だけです。お隣の韓国ではこの制度が活用されており、徴兵制を巡る裁判で最高裁で敗訴した当事者が、この制度を通じて判断を覆し、法律改正にまで至った事例があります。これが導入されれば、日本社会も大きく変わるはずだと藤田さんは話されていました。
「独立した国内人権機関」の設置も急務です。政府から独立し、裁判よりも簡易に国際人権法に基づいた申し立てができる機関で、モンゴルにさえ存在します。日本は国連から毎回、早期設置を勧告されています。
最近では、政治の場でも変化の兆しがあります。社民党の記者会見などで、人権機関の設置や「包括的差別禁止法」の制定に取り組むという発言が出てきました。藤田さんは、この法律が制定されれば日本の差別問題の多くが解決に向かうと仰っています。

ストライキを「犯罪」にする異常な現状

イギリスでのストライキについても報告がありました。物価高の中で生活を守るため、ロンドンの地下鉄が4日間にわたってストを決行しました。メディアはそれを正当な権利行使として報じ、社会も「不便だが、労働者にとって大事な問題だ」と尊重します。 ひるがえって日本はどうでしょうか。ストライキは死語になりつつあり、「迷惑だ」という反応が先行します。関生支部が労働三権を行使すれば、80人以上が逮捕・勾留され、犯罪者扱いをされました。当時、メディアは企業側の視点ばかりを報じましたが、藤田さんと活動する弁護士たちは、この事件を「国内初の共謀罪適用ではないか」と重大視していました。
藤田さんには、国連作業部会が訪日調査に来た際、関生との橋渡しをしていただきました。後に無罪判決が相次いだ際、藤田さんに取材依頼が来たそうですが、彼女は「何を今さら(遅すぎる)」と感じたそうです。

国際人権を武器に闘い続ける

『武器としての国際人権』という本から、私は数多くの気づきを得ました。 女性、子ども、障がい者、外国人の権利を守れない国に、労働者の権利を守れるはずがありません。様々な人権課題に直面する当事者たちと繋がりながら、「人権機関の設置」「個人通報制度」「包括的差別禁止法」の実現に向け、微力ながら取り組んでいきたい。

すでに、自治体への申し入れは100件を超えました。24春闘からは組合の統一要求書に「ビジネスと人権の指導原則」を盛り込んでいます。 この「国際人権」を武器に、これからも闘い続けたいと思います。一人ひとりの尊厳のために。

【 人権部 西島 大輔 】

真相はこれだ!関生事件 無罪判決!【竹信三恵子の信じられないホントの話】20250411【デモクラシータイムス】

ご存じですか、「関西生コン」事件。3月には、組合の委員長に対して懲役10年の求刑がされていた事件で京都地裁で完全無罪判決が出ました。無罪判決を獲得した湯川委員長と弁護人をお呼びして、竹信三恵子が事件の真相と2018年からの一連の組合弾圧事件の背景を深堀します。 今でも、「関西生コン事件」は、先鋭な、あるいは乱暴な労働組合が強面の不法な交渉をして逮捕された事件、と思っておられる方も多いようです。しかしそうではありません。企業横断的な「産別組合」が憲法上の労働基本権を行使しただけで、正当な交渉や職場環境の改善運動だったから、強要や恐喝など刑事事件には当たらないものでした。裁判所の判断もこの点を明確にしています。では、なぜ暴力的組合の非行であるかのように喧伝され、関西全域の警察と検察が組織的に刑事事件化することになったのか、その大きな背景にも興味は尽きません。 tansaのサイトに組合員お一人お一人のインタビューも連載されています。ぜひ、どんな顔をもった、どんな人生を歩んできた人たちが、濡れ衣を着せられ逮捕勾留されて裁判の法廷に引き出されたのかも知っていただきたいと思います。
動画閲覧できます ココをクリック

増補版 賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国

竹信三恵子 (著) 旬報社 – 2025/1/30

勝利判決が続く一方で新たな弾圧も――
朝⽇新聞、東京新聞に書評が載り話題となった書籍の増補版!関生事件のその後について「補章」を加筆。
1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけだ。そんな中、関西生コン労組は、労組の活動を通じて、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も、実現した。そこへヘイト集団が妨害を加え、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合潰しが行なわれているのか。迫真のルポでその真実を明らかにする。初版は2021年。本書はその後を加筆した増補版である。
◆主な目次
  はじめに――増補にあたって
  プロローグ
  第1章 「賃金が上がらない国」の底で
  第2章 労働運動が「犯罪」になった日
  第3章 ヘイトの次に警察が来た
  第4章 労働分野の解釈改憲
  第5章 経営側は何を恐れたのか
  第6章 影の主役としてのメディア
  第7章 労働者が国を訴えた日
  エピローグ
  補章 反攻の始まり
  増補版おわりに

映画 ここから 「関西生コン事件」と私たち
この映画は「フツーの仕事がしたい」「アリ地獄天国」など労働問題を取り上げ注目を浴びている土屋トカチ監督の最新作。「関西生コン事件」の渦中にある組合員たちの姿を描いた待望のドキュメンタリー映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』がこのほど完成。業界・警察・検察が一体となった空前の労働組合潰しに直面した組合員と家族の物語を見つめた。(左写真は松尾聖子さん)いまも各地で上映会がひらかれている。
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