和歌山事件一審判決の問題点-中島光孝弁護士
2022年3月11日、和歌山地方裁判所で、一連の刑事弾圧事件の一つである和歌山事件の判決がありました。武谷新吾書記次長、大原明執行委員、松村憲一執行委員の3名に対し、懲役10か月から懲役1年4ヶ月、執行猶予3年の有罪判決でした。
この事件の重要なポイントは、2018年6月18日に元暴力団員であった者1名を含む2名が関生支部事務所の「調査」活動を行ったこと、この2名を「調査」活動に差し向けた者が和歌山広域協の丸山克也氏(以下「丸山」)である疑いが濃厚であること、同年8月22日にK組合員ほか40名ほどの組合員とともに広域協事務所を訪ね、武谷さんら3名とK組合員が丸山に対し事実確認を求め事実であれば謝罪を求めるための面談をしたことです。
判決は、3名の行為は,相互にかつK組合員と共謀し,「威力を用いて人の業務を妨害」し(刑法234条)、また、「生命、身体、名誉若しくは財産に対し、害を加える旨を告知して脅迫し」、「人に義務のないことを行わせ」ようとした(刑法223条)ものであるとし、それぞれの構成要件に該当するとしました。
続いて違法性判断においては、「関生支部として、丸山に事実確認を行い、事実であれば再発防止を求める交渉を行うという目的自体は正当である」としました。しかし、「関生支部組合員の中に丸山又は広域協に雇用されている者がいないこと」に照らせば、その目的を達成する手段として許容される行為には相応の限界があるとしました。
この判決は、3名の行為が構成要件に該当するかどうかの判断においても大きな問題があります。丸山は自らも関生支部事務所を「調査」し、また広域協の従業員であった元暴力団員であった者にも「調査」させており、8月18日の「調査」に丸山が関与していた可能性は極めて高く、したがって丸山には事実を説明し、事実であれば謝罪すべき社会生活上の義務があるはずです。しかし、判決は、そのような義務はないとしました。
そして、違法性については、組合員のなかに丸山と雇用関係にある者がいないとの理由から、厳しい判断が示されています。これは、産業別労働組合の結成とその活動が雇用関係にない団体や企業に対する交渉にも及ぶことを保障する憲法28条に反するものです。産業別労働組合が企業別労働組合とは異なる活動を行うことは古くはイギリスのウェッブ夫妻の『産業民主制』で詳しく述べられています。日本国憲法28条は産業別労働組合が本来的な組織形態であることを前提に明文化されたものです。判決はこの経過を全く無視し、結果的に「法秩序全体の見地」から違法であると判断しました。産業別労働組合についての理解がないこと、これが判決の大きな問題です。
「労働組合つぶしの大弾圧を許さない実行委員会」への賛同の呼びかけ PDF
池田香代子の世界を変える100人の働き人60人目
労働運動を〈犯罪〉にする国「連帯ユニオン関西地区生コン支部」事件
ゲスト:竹信三恵子さん(ジャーナリスト・和光大学名誉教授)
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賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国 竹信三恵子(著)– 2021/11/1 旬報社 1,650円(税込み)
1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけ。
そんななか、連帯ユニオン関西地区生コン支部は、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も実現した。
業界の組合つぶし、そこへヘイト集団も加わり、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合つぶしが行なわれているのか。
迫真のルポでその真実を明らかにする。
目次 : プロローグ
第1章 「賃金が上がらない国」の底で
第2章 労働運動が「犯罪」になった日
第3章 ヘイトの次に警察が来た
第4章 労働分野の解釈改憲
第5章 経営側は何を恐れたのか
第6章 影の主役としてのメディア
第7章 労働者が国を訴えた日
エピローグ
【著者紹介】
竹信三恵子 : ジャーナリスト・和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社、経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)、2011-2019年和光大学現代人間学部教授。著書に『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書、日本労働ペンクラブ賞)など。貧困や雇用劣化、非正規労働者問題についての先駆的な報道活動に対し、2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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