「みじめな悪路を絶つための提言」

戦後50年の制約として
山陽新幹線の崩壊現場のすぐ近くに住んでおられる作家の藤本義一氏は、自身の震災体験を苦痛に満ちた文章で書かれているが、そのなかに次の箇所がある。
「長女と孫はマンションの部屋で呆然としていた。恐怖で泣き叫んだ孫は、すぐに泣きやんで一人で服を着はじめたという。四歳なりに危機感を覚えての行動だろう。この孫は、近くの新幹線橋梁の倒壊現場を目の当たりにして、目と口を大きく開けたまま直立不動の状態を続けたと長女が報告にきた。彼は、いつも一番安全といわれた新幹線下の公園で遊んでいたのだから、一挙に日常性が変化したのに動揺したのだろう」(「毎日新聞」95年2月9日付)
新幹線高架橋を調査すると、高架下にいくつもこうした児童遊園地があり、住民からも「新幹線の下が一番安全だといってきた」と聞かされた。それは、戦争時の大空襲の時に旧国鉄の高架下に逃げて命拾いした人々の体験が語り継がれてきたからである。公共工事の信頼とはこうしてできたものであろう。
ところが阪神・淡路大震災は、「今度地震がきたら、新幹線からなるべく遠くへ逃げなければ」と、沿線住民のあいだでささやかれている。戦後50年を経て、こんな情けない評価が公共工事に下されるとすればあまりにも情けない。いま建設生産に携わるすべての関係者が勇気を持って真摯な努力を注ぎ、原因究明と公共工事の抜本的見直しに踏み切らねれば、早晩、そのツケはより深刻なかたちで私たちと次世代を襲うであろうことを覚悟しなければならない。
そんなみじめな未来への悪路を絶つために、1995年1月17日以降に山陽新幹線高架橋で、阪神高速道路で、そしてビルやマンションで異様な光景を前に立ちすくんだ無数の「孫たち」に対して、私たちは誓約しなければならない。私たち全日本建設運輸連帯労働組合は、その誓約を具体化するための指針として次の提言を明らかにし、自らも実践していくこととしたい。

「公共工事と品質管理の抜本的見直しにむけて」の提言

第1、公共建造物のうち、コンクリート構造物を対象として、施工に関わる問題点と被害原因の関連について徹底検証すること。
検証にあたっては、発注者、ゼネコン、資材納入者が、建設・積算・発注・施工・検査・維持補修の生産過程を具体的に明らかにするのに必要な情報、資料を提出し、相互に異なる見解・主張をもつ学者・研究者などの参加により行い、結果を公表する。
第2、国と自治体の相互協力にもとづいて既存不適格建造物に対する緊急調査を実施するとともに、チェックシートや補修基準の作成、補修費用に対する融資制度など施策を確立すること。
対象となる建造物に関するデータ集約をもっと効果的に進めるためには、国・自治体のみならず、ゼネコンと建設業者団体の協力が必要である。
第3、コンクリート構造物で進行する第二の危機に対する歯止め措置を迅速に実行すること。
(1)生コンクリートの施工実態、業界動向と価格・品質管理に関して発注者による緊急実態調査の実施。
(2)生コンクリート業界の正常化に関する関係者合意の形成。
(3)「公共建造物の建設費の縮減に対する行動計画」の再検討。
第4、公共工事における請負施工のあり方を抜本的に見直すとともに、新たな品質管理・保証制度を確立すること。
(1)設計と施工の乖離をなくすために、公共工事発注者による直営施工を原則とし、当面、元請け業者に対する「下請額制限」や「受注総額制限」など諸外国の制度を参考・導入していく。また、産業政策として建設生産の主体を大規模開発型の大手ゼネコン型から地域密着型の中堅・中小企業型に転換していく。
(2)積算から完了検査にいたる生産過程において、現行の相互信頼をやめて相互不信頼の原則導入し、公共工事への参加企業(建設業者のみならず資材納入業者の含む)ISO導入を奨励・義務づけていく。
(3)会計法を見直して現行の積算方式を改善し、生コンクリートなど使用材料が品質確保に支障のない適正価格で安定供給されるよう措置していく。
(4)コンクリート施工において、綱構造物と同様の「第三者機関」(米国ではインスペクター制度としてチェック機能が充実)制度を導入するほか、安全・品質確保のために発注者、ゼネコン、製造・納入者、労働組合の現場協議制度を導入すること。
(5)現行の瑕疵(かし)担保期間の見直しを含んで、ゼネコンによる品質保証制度を抜本的に見直すこと。
(6)工事現場の大型化を見直すこと。
第5、建設・生コン産業を近代化し、公共工事の担い手として労働者の雇用・労働条件と社会的地位の向上をはかること。
(1)現行請負制度のもとで生じている三省協定賃金(公共工事労務費)と現場労働者の賃金実態の乖離をなくすために必要な措置を進める。
(2)公共工事発注額のうち一定額を物件ごとに徴収し、建設・生コン産業における技術者養成、品質管理研修制度を確立する。
(3)労働基準法、労働組合法に違反した企業(建設業者のみならず建設資材納入業者を含む)は、公共工事のすべてのレベルで参加させない原則を確立する。

関西生コン事件ニュース No.8(19.06.08号)PDF

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